音楽レビ 映画レビ ひとこま画像 2001年1月29日号
 
 【ブックレビュー】 著:ポータルサイト勤務 高橋明彦(27)
今週の二冊
「無限の住人」
沙村広明
>>>>> 8点
「バガボンド」
井上雄彦
>>>>> 7点

今回は江戸時代剣劇対決と銘打ちまして漫画レビューです。「バガボンド」…著者の井上雄彦は言わずもがなの超々人気漫画家。スラムダンクの作者と言えばわかる人も多いかとも思います。掲載雑誌は週刊モーニング(講談社)の人気連載。原作は宮本武蔵を持って来て正統派時代劇。それがバガボンド。
【あらすじ】
「無限の住人」…時は江戸時代。100人斬りの罪を持ち死ねない体になった侍・万次。仇討ちを願う少女・凛のと戦いの旅に出る。敵は無頼集団「逸刀流」の首領。長い旅が始まる・・・「バガボンド」…原作「宮本武蔵」著吉川英治


かたや「無限の住人」。著者の名前どころか、この漫画の名前自体聞いた事もなく…掲載雑誌の月刊誌アフタヌーン(これも一応講談社)すら知らない人も多いのでは無いでしょうか。その上、時代考証はめちゃくちゃで…何より主人公が「死ねない体」であるという破天荒ぶり(笑)

同じ土俵で二作品を語る事に意味が無いと感じるかもしれませんが、そうではなく現状十分に認められているバガボンド。それに勝るとも劣らない「無限の住人」を比較・紹介する事に意義を感じます。「無限」をキワモノでは有りません、漫画の正統的な傑作だと思ってます。

実際この二作品を読み比べる時に一番感じるのが「死」の重さと軽さだろうか。僕がバガボンドにどうしても感情移入できないのが「死を匂わせているが宮本武蔵は絶対に死なない」という隠れたロジックが見えてしまうからです。武蔵と戦う敵は凄く魅力的でバガボンドを面白くする要因になってると思いますが、本気に戦うのですが…結末の知ってるドラマを見るようでどこか戦いを見ても希薄な感じがぬぐいきれない。浅い。

それを逆手に取ったのが「死ねない不死身の体」を持った「無限」です。この主人公が死ねない事で、逆に剣による戦いのダイナミックさと激しさを極限までに引き出す事に成功していると見る。はっきり言って面白い。燃える。ナンセンスな設定だが、「死ねない」侍を混ぜる事で格段に世界が広がる。アイディアの勝利。さらにそれを惜しみなく伝える超絶な画力。粗削りだとは思うが、その粗さが味となって面白さを加速させてるから勢いのある作家は凄い。その表現方法・コマ割り・決め台詞・是非一度味わってみてください。ヤミツキです。

たまには豪快に命を削りあう男・女を見て、自分を省みるのも悪くないですね。楽しんでいただければ幸いです。それでは、また再来週。

評者→高橋明彦(27):好きなジャンルはもっぱらミステリー。年食ってから一番印象に残った本は京極夏彦「姑獲鳥の夏」。人が死なないストーリーの本も楽しく読めるように鋭意努力中。

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