映画レビ ブックレビ ひとこま画像 2003年9月24日号(毎週水曜更新)

 【隔週更新音楽レビュー】著:企画制作会社勤務 斎藤 滋(25)

今週の一曲
「会いにいく」
GRAPEVINE

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別れた人のこと、覚えているほうですか?斎藤です。
今回はGRPEVINEの「会いにいく」です。リーダーだったベースの人が病気等の理由で脱退してから初のシングルで、前回から1年弱空いてのリリースです。

今回は色々考えさせられる歌詞だったので、久し振り歌詞について書いてみたいと思います。
ちょっと引用して追っていきます。

歩き回って 探してて/見つけたものは いつもの空だ
ここでの「いつもの空」は何も変わらないということの暗喩としてです。

そこから
急いで会いに行きたいなら/綺麗事は言ってられないよ
というサビの部分につながるのですが、ここでは喪失感ばかりがつのる印象になっています。

それが2番になると、
急いで会いに行きたいだろ/見てごらんよ/目の前を
となり、喪失感はそのままだけど新しく手に入れているものもあるんじゃない?ってことへの“気付き“がきます。

直後のラストの大サビへのつなぎでは
あたりまえの日だって/ここに在る意味で
と。ここが最終的な転換点でしょう。何も変わらないと思っていた“いつも”への意識が完全に変わります。

そして、
ひとりで/何を誓うんだろう/目を開けて/いつもどおりなだけ
と、逆にいなくても続いていく日常に対して、諦めに近いものを見せながらも、
急いで会いに行きたいなら/見てごらんよ そっと/目の前を…
と“いつも”をみなおすところに落ち着く。

勝手に解釈すると、大切な人を失って、それでさまよって色々探し回ったけど、みつかったものは“いつも”のまんまだった。その喪失感は大きい。それでも、時間は確実に経っていて、自分の周りにも新しい生活が始まっていることに気付く。それと同時に、いなくても変わりなく続く日常があることへの諦めも出てくる。
といったところでしょうか。

悲しいけど、もう恋愛だけで生きているわけではなくて、隣にその人がいなくても、自分はやらなければいけないことがあって、変わらないことも沢山あって、という大人の失恋ソングです。
田中氏の書く詞は、言い切りが少なく、匂わせるところで終わっていて、それが深みを出していて、余計大人の感じを出しています。

この曲、近い状況だったぼくにはとてもリアルに響きました。冒頭に「色々考えさせられる」と書いたのは、そういうことです。
フラレた後、ああでもないこうでもないと悩んで、忘れよう、新しい人・生活・楽しみを探そう、と思ってもがくのに、そう大きくは変わらなくて。それに、仕事は変わらずあるし、同じところで買い物をして、同じように寝て、食べて。そうすると、また会いたくなったり、電話したくなったり、という日々を繰り返してきました。ただようやくその後、隣にその人がいない生活が当たり前になっていること、いなくても無関係に続いていく日常があること気付きました。

だから、唯一足してほしかった点は、『君に会えない時間が続いてしまったため、新しい自分に“なってしまった“』ことに関して。
ぼくは、見つけた新しい“いつも”に、ちょっと寂しさが残りました。その人がいないのが当たり前になってしまって、どんどんと自分の中で占める割合が減っていって。
ちょっと女々しいですね…。

ただ、それの個人的な自己投影と不満を差し引いても、GRAPEVINE史上最高の曲だと思います。彼ら特有のけだるさと、それでいてどこかカラッしたところもちゃんとあって。
音的にも今回はイントロから繰り返されるギターのリフがとても印象的で、頭のなかで流れます。今までのGRAPEVINEのいい曲は、サビの部分のメロディーを心に来る言葉と田中氏の声と一緒に覚えてることが多かったんですが、今回はイントロが一番印象的でした。

それゆえ、「会いにいく」は5点とさせていただきます。

それでは、また次回。

評者→斎藤 滋(25):一番好きな歌はスーパーカーの「Sunday People」。言葉で激しく主張するのではなく、メロディ、アレンジ、詞が絡み合い、全体で“何か”を伝えてくれる曲が好きです。スガシカオの人の心の動きとシチュエーションを切り取る詞も好な一方、全盛期の小沢健二の暴力的なまでのキャッチーさにもひかれたりします。

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