今週の一冊
「風の歌を聴け」
村上春樹 |
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8点 |
本作品は言わずと知れた超有名人気現代作家「村上春樹」のデビュー作。代表作は「ノルウェイの森」「ダンス×3」「アンダーグラウンド」「ねじまき鳥クロニクル」・・・等々枚挙に暇が無い。もっとも売れる作家の一人であることも異論はないでしょう。今回はその「村上春樹」のちょっと趣向を変えて、代表作ではなくデビュー作を読んで見ました。
【あらすじ】
舞台は、1970年の夏。「僕」は毎日のように「鼠」とビールを飲み、取り留めの無い話をし、偶然知り合った女性とやるせなく退屈な時を過ごす。たいしたこともなく過ぎ行く「僕」の夏を軽快なタッチで描く。
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さて、自分でブックレビの題材を決定しておいて何ですが・・・とかく現代小説の類は、ブックレビは書きにくいといつも感じます。何かが起きる訳じゃない。人が密室で死ぬ訳でもなく、殴り合うでもなく、ましてや名探偵なんか絶対出てこない。全てが有るがまま、まるで僕らの日常がそのまま切り取られたような、そんな気持ちにすらなる。特に本書をはじめ初期村上春樹の私小説風作品群はその傾向が強いように思えます。もちろん本書も御多分に漏れずデビュー作と言うことで、その傾向をいかんなく発揮してますね。何気ない日常と、何気ない空気。在り来たりな様に見えて、普通有り得ない会話と人物達が織り成すたった二週間の儚い物語。
この本は凄く薄く155ページという量ならば一日二日もあれば、気軽に読めるのも、まるで著者が敢えて「どうしようもない日常の軽薄さ」を醸し出してるとすら感じる。しかも厄介なことに、それが心地よい空気を感じさせるからまた困ったものだ。村上春樹の人気作家たる所以は「彼の文が持つ心地よい空気である」と僕は勝手に感じてます(笑)
物語は最初から作者の告白文形式で始まり、大学時代の夏の二週間の描写、突然のラジオDJの挿入、昔の彼女との回顧録等…かなり構成としては、あっち行ったりこっち行ったりと構成としては短いなかにも、エピソードが折り重なり飽きさせない構成だとは思う。最初と最後の告白の部分は村上春樹自身の本当の告白であるかのようであり、そうするならば本書全体が彼のノンフィクション?と思わせたり…どこまでが本当で何処までがフィクションなのだろうか。
・・・何てこと無い文で、結局何も無く終わる小説。それが本書だが、デビュー作で有るにもかかわらず、続きが読みたいと思わせるのは流石と素直に思える。この値段で、この手軽さなら買いでしょう。さらっと読んで見てください。すこし、残るものが有ったら、村上春樹はあなたに有ってるのかも知れません。まだまだ名作を生んでくれるだろう気鋭の作家の原点を350円で一度読んでみて損は無いですね。
評者→高橋明彦(27):好きなジャンルはもっぱらミステリー。年食ってから一番印象に残った本は京極夏彦「姑獲鳥の夏」。人が死なないストー
リーの本も楽しく読めるように鋭意努力中。 |
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読み終わった方は・・・・【裏ブックレビ】
ども、裏レビューです。村上春樹。実はあんまり得意じゃないんですよね。名作と名高い「世界の終わりとワンダーランド」上下巻も、道半ばで挫折したような記憶が…(笑)
多分、小説と言うか本に何を求めるかと言うベクトルが合わないと本と言うものはつらいのかもしれません。だからこそ本屋では、ジャンルが明確になってるのだろうね。俺はまだ若いので…本にスリルとかサスペンスを求めがち(ミステリとかが好きなだし)。本書で村上春樹はハートフィールドを多々引用してるけど、その中の「誰もが知ってることを小説に書いて何の意味がある?」という引用を見て、同感だなーと思ったりもしました。今回の「風の歌を聴け」は二個所好きなところが有りました。
一つは、軽薄なトークから始まり病気の人の手紙で落ちを付けるDJの挿入部分。最後の「僕は・君たちが・好きだ」の台詞への流れも好きだけど、それ以上に
「この曲が終わったらあと一時間50分、またいつもみたいな犬の漫才師に戻る。御静聴ありがとう」ここが好き。もう一つは、彼女との昔のやり取り。「嘘つき」といわれた時に思った僕の気持ち。「しかし彼女は彼女は間違ってる。僕は一つしか嘘を付いてない」と言う所。人それぞれ心の琴線は違う。そのどれか一つにでも触れられることが出来る文章が書けると言うこと自体、凄いことなのかもしれないと思い直し中です>村上春樹。
このどこまでも平坦な日常を書くなかで。スリルとサスペンスという飛び道具なく人を引き付けられる村上春樹。そう考えて評価することにしました。さて…眠ってる小説を読んで見ることにします。
それでは、また再来週。
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