音楽レビ 映画レビ ひとこま画像 2001年2月26日号
 
 【ブックレビュー】 著:ポータルサイト勤務 高橋明彦(27)
今週の一冊
「チーズはどこへ消えた?」
スペンサー・ジョンソン
>>>>> 5点

今回のブックレビはベストセラー街道驀進中、話題のビジネス書「チーズはどこへ消えた?」をお送りします。本書はベストセラーとして話題になっている事に加え、94ページという薄さ・手軽さも有り、週レビ読者の方も読んだ方・読みたい方も多いかと思います。
【あらすじ】
二匹のネズミと二人の小人の物語を中心に展開する「チーズ」を=「人生の目的」に喩えた示唆に富んだ短編教訓本。

まず本書をざっくり紹介するならば、「二匹のネズミと二人の小人の織り成す短編物語を中心に置き、その物語を語る人たちの体験談を交えて「チーズ」を人生の目的の比喩として語る示唆に飛んだビジネス・人生の指南書」でしょうか。

この本の最大の最高、かつ唯一の素晴らしい点は、本書の「ネーミング」だと思います。乱暴な言い方ですが、最近は名前先行で売れてる書物が多いように思えますね。「嘘を付ける人付けない人」「貧乏父さん金持ち父さん」「仕事の出来る人出来ない人」…例を挙げれば枚挙に暇が無いですが…本書「チーズ…」がもし「人生に与える一つの教訓〜ネズミと小人のポジティブシンキング」という題名だったら売れただろうか?自分で題名を考えておいてなんですが、かなり疑問だと思うね(笑)。本書はキャッチーな題名と、840円95ページの手軽さが最大の売れ原因ではないだろうか。

さて、誉める所はここまでで(あまり誉めてないけど)、本書に対する率直な意見を言うならば、「平易な物語と言葉を使って展開される安易で楽観的な企業教訓本」…ですか。たしかに、すぐに悲観的に物事を考えたり、今までの人生の過ちとか選択のミスの原因を悩み過ごしてる人ならば、本書は「ポジティブシンキング」する為に力と金言をくれるかもしれません。「物事は考えかた次第だ!自分を笑える余裕を持とう!」と。

しかし、本書を覆う「新しいチーズ(変化)至上主義」とでも言える楽観主義には少々熟考が足りないような気がします。「新しいチーズを探しに行けば全てはバラ色」的な物語展開。しまいには「変化バンザイ!」と小人叫ばせてる段においては閉口+苦笑してしまいました。

別に僕は「本書に書かれてる事」を全面否定しているのではありません。書かれてることは全く持って正論、かつすばらしく解りやすく、なるほどと思う点も多いでしょう。良い言葉たちです。しかし、同時にこれらの言葉は、我々読者が20年・30年・40年生きてきた人生において、他の既存の書物・名言金言・伝記・自分の人生経験・人からの話…で得られたレベルの事ばかりであると思わざるをえないです。ビジネス書として人生を指南するには、話の深みが足りない。格言じみた事を単純化した物語で述べるだけで、少なくとも僕を啓蒙するのには足りません。

企業の人事部や上司の人は部下や社員に配りたがる本かもしれませんね。実際企業の研修等に多く利用されてるみたいですし。そんな使い方をされてる=企業の都合の良いマインドにさせられる本という点も、本書をちょっと厳しく見てしまった要素の一つかもしれませんので。。

厳しい評価の本書ですが、手軽さと前向きな思想を評価するならば…立ち読みを薦めます(笑)頑張って読めば、一時間程度で流し読みが可能なので、是非読んで冷静に判断して見てください。あなたの人生に新しい力を与えることが可能な本かどうかを。

最後に…すべてのチーズ格言に「〜とは限らない」と付けて見てください。意味が通じます。というよりは、こちらの方がより現実を表しているような気がする…と考える僕は「ヘム」なのだろうか?(笑)要するに、すべてに「GO」ではなく、時と場合と自分の才能とを冷静に見極めて…というバランスが大事と。人生はこの本のように単純なものじゃーありませんよね。仮にチーズでお腹いっぱいが幸せとも限らないし…ね。

ご静聴ありがとうございました。それでは、また再来週のブックレビでお会いしましょう。

評者→高橋明彦(27):好きなジャンルはもっぱらミステリー。年食ってから一番印象に残った本は京極夏彦「姑獲鳥の夏」。人が死なないストー リーの本も楽しく読めるように鋭意努力中。

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読み終わった方は・・・・【裏ブックレビ】

今回は特別編。読み終わった方に送る「裏レビ」ではなく、今回は同系統の本「ブルーデイブック」もブックレビを展開してみました。裏レビ枠でひっそりとですが(笑)・・・とは言うものの「チーズ・・・」と同系統で選んだのが「ブルーディブック」ですが、こちらも結構売れてるようですね。最近の癒し系ブームも影響してるのでしょうが・・・CDで坂本龍一やfeel等を聞きながら、この「ブルーデイブック」を読めば、完璧ですかね(笑)

「ブルーデイ」の内容ですが、本編のほうで紹介された、「チーズ」と比較して、僕は本書のほうが好感を持てました。実際、1ページに1枚の動物の写真と1行程度の詩の文章が下に付いてる数十ページの構成で1,000円という贅沢な本。小説や詩というよりは、写真集+短い短編詩という体裁ですが。しかし、書かれてる内容に関しては「チーズ」と似たり寄ったりの5点と言うところです。アリキタリの「人生なんとかなるさ明るく行こうぜ論」が展開されてて目新しさはほとんど無いのですが、それよりもなによりも、本書の魅力は「動物の写真」との平行掲載にあります。全然期待しないで流し読みをしたのですが・・・・・・予想外に「心が元気になる」本かもしれません。コトバではなく、ビジュアルで笑顔にさせる、元気にさせる。多分、これを読んだ人は一度必ず頬を緩ませると思います。斜に構えて読んだ(「チーズ」が気に入らなかった影響で…(笑))僕ですら笑顔になったくらいですから。

何か元気を出したいとき、嫌事がある時。僕はどんな文章を読んでも駄目だと思うのです。文章を読む余裕も気分も萎えた時、暖かい紅茶とお気に入りの音楽を聴きながら、こんな本を開いてみると案外元気が出るものではないでしょうか。お試しあれ。理屈で説くよりも笑顔にしてくれる本の方が重宝する・・・という気持ちにさせてくれました。ブルーデイブック。名前負けはしてないようですね。点数は緊急時ならば8点。15分で読めるので立ち読みをオススメ・・・と言おうと思いましたが、何度も読んでは効果が薄れるので…可能ならば買っておいて辛い時に封を切るという薬的な使い方をしてもおもしろいかも。笑える保証はかなり高いですので。