音楽レビ 映画レビ ひとこま画像 2001年4月23日号
 
 【ブックレビュー】 著:ポータルサイト勤務 高橋明彦(27)
今週の一冊
「白夜行」
東野圭吾
>>>>> 10点

久々にやられました。「良書」との出会いが読書の目的ならば、少なくともこの本は読書の悦楽を再認識させてくれた。素直に本書に出会えた事に感謝したい。

【あらすじ】
1973年廃墟ビルで一人の死体が見つかった。殺されたのは質屋店主・桐原洋介。この事件を起点に桐原亮司・唐沢雪穂二人のあてのない白夜行が今、始まる。

本書「白夜行」比較的長編の多いミステリの中でもかなりの重厚さを持っています。それはページ数や装丁だけでなく、著者東野圭吾の丁寧かつ精巧な語り口によって削りだされる「白夜行」の世界そのものが一種整然とした重厚さを与えてると感じます。

「白夜行」は、1973年に発生した廃墟ビルに有った質屋店主の死体が全ての始まりとなっています。この事件を起点に質屋店主の息子・桐原亮司、質屋店主の最後に会った女性の子供・唐沢雪穂。この二人の主人公をメインに、刑事である笹垣が関わり話は進んでいく…いや、ありきたりな「話が進んでいく」と言うのは、この作品にはあまり当てはまらないですね。話はそんなに単純ではないから。

とにかく…起点となる事件の後のストーリー展開が複雑にして巧妙。ミステリには「伏線」は付き物ではあるが「白夜行」における伏線は、章立てで進むストーリーの中で短いもの・長いモノ・ふとしたときに気づくもの・最後に見えてくるもの…この絡み合い方が絶妙すぎる。至福の出来。全てが繋がって一本の線である「はず」なのだが…全ての話が遠く乖離した位置にあるんじゃないかという錯覚にも襲われる。近づき離れる二人の主人公、雪穂と亮司。全てを繋ぐ「糸」は…あまりにも細く目に見えないが恐ろしく強く、確実に貴方にも見えるはずです。その糸の紡ぎ方こそが東野圭吾の力量なのだと思う。

さらに本書の特筆すべき点は、主人公たちの心理的な描写がほとんど無いと言うことです。彼らが思った事、感じてる事は文字には出てこない。しかし見える。輪郭をなぞることで、おぼろげな真実が浮かび上がる。そんな本書で最も凄い点はなにか?まずは是非一度読んでください。私見では有りますが裏ブックレビに載せさせて頂きます。読み終わってから「なるほど」と思う凄さが、また別に有ります。

そして決して交わる事無く複雑に絡み合う桐原亮司・唐沢雪穂二人の「白夜行」は、20年という時を過ぎた後、最初の質屋事件を担当した笹垣という元刑事によってクライマックスを迎えます。その終わりは今までの長い物語を含め…どうしようもなく切ない。最後の1ページを描く為に本書が有り、最後の1ページに至る為に本書は有る。私は不覚にも朝の通勤電車で泣いてしまう所でした。

是非、皆さんも読書の悦楽を味わってください。分厚く手ごわい本書ですが、読む価値あります。昼飯を二回抜かしても読んで欲しい>1900円。今週のブックレビは以上です。読み終わった方は右下ブックレビをどうぞ。ありがとうございました。また再来週お会いしましょう。

評者→高橋明彦(27):好きなジャンルはもっぱらミステリー。年食ってから一番印象に残った本は京極夏彦「姑獲鳥の夏」。人が死なないストー リーの本も楽しく読めるように鋭意努力中。

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読み終わった方は・・・・【裏ブックレビ】

さて、少々熱のこもったブックレビとなった本書「白夜行」ですが…読んでくださってありがとうございます。そんな言葉を言いたくなるくらい良い本でしたね。個人的にはかなり絶賛です。

ブックレビでも書きましたが…すごい複雑・巧妙・精緻な文章です。全ての起点である事件が、すべての理由であり結末でもあったような気もします。あの最初の事件が全てだったと。雪穂と亮司にどんな精神的繋がりがあったか…それは本書ではまったくと言っていいほど記載がありません。そう、ブックレビの方で書いてあった「本当に凄い点」とはそこです。「桐原亮司と唐沢雪穂は一度も同じ場面に出る事無く、会話すらしてない」と言うことです。

本書を読めば誰でもわかる二人の強く・異常なまでの絆。二人は、子供の頃からの悪しき体験と、起こした事件の所為で「決して太陽の下を歩けない」存在となった。しかし御互いを「白夜」の月の光として、険しい人生を障害物を排除しながら二人は御互いの為だけに生きる事・それを目的とする事でなんとか生きてこれたんだ…と解釈する事が可能なくらい強い絆が自然と理解できたはずです。その二人が思い返すと会話すらしていない。これは凄い。会話もなしにそこまでの絆を「見せる」。東野圭吾の力技としかいえない。脱帽です。

最後の1ページも素晴らしい。個人的にあまりに切なすぎる。「知らない人」と言った所よりも最後の一行。「彼女は一度も振り返らなかった。」で泣けた。

名作。