音楽レビ 映画レビ ひとこま画像 2001年5月14日号
 
 【ブックレビュー】 著:ポータルサイト勤務 高橋明彦(27)
今週の一冊
「山形道場」
山形浩生
>>>>> 1点

さて、今回のブックレビはTUTAYA平積みシリーズと題しまして、面白そうな本をぱっと見で手に取って読んで見ました。お題は「山形道場」。本書は山形浩生なる方が、独自の思想と発想と語り口によって、ネットワー ク・経済・フリーソフト・ハッカーといった最近のIT関連の諸般世相を切る!という感じのコラムとも言えるし、論文集とも言えるし、雑文集ともいえる本です。
【あらすじ】
経済・情報・フリーソフト・ハッカー・NGOからクラインの壷まで、独特の語り口で独自の理論を展開するまとまりのない雑文集。

本の末尾に書いてる著者紹介が「東大・MIT修士卒某大手シンクタンクに所属する傍ら、経済・小説・コンピュ ータなど広範な分野で翻訳と執筆を手がける。わかりやすさには定評がある一方で、その以上にでかい態度 と節度なき罵詈雑言でも悪名高い。」というのが意外でちょっと面白い。 ちょっと目を通すだけでも解りますが、なるほど…と納得の語り口・論調です。敵も多いんだろうなーと要らぬ心配すらしてしまいそうな「キケン」な論客な匂いがします。間違いなく偉そうです。この語り口が苦手な人はまず読まないほうが身のためですね。

本としての構成は、ちょっと長めの「はじめに」から「ケイザイ」「情報」「ハッカー」「ネットワーク」「フリーソフト」 と「社会・文化」に喝!という五章立てで展開されてる。 正直、ブックレビの点数はさておき、本書は「サイゾー」や「WIRED」というちょっと先鋭的な・・というか、マニア ックないわゆる「世間一般不特定大多数」がメインターゲットの雑誌ではなく、少し外れた所に面白さとか存在価値を見出すようなコアな雑誌である事を見事に反映した少々難解なモノに仕上がってると思う。 多分前半ほとんどの章(IT関連・ハッカーとかフリーソフトとか…)を理解するには、ある程度のIT関係の知識 やネタの仕込みが必要。と言う意味で言えば本書はすべてを理解するには敷居の高い本となってます。

後半の社会ネタでも過去の名著と呼ばれる経済・哲学の本や有名理論の引用も多く注意が必要ですね。 ただそれらハードルを越えた所で本書を評すなら、本書は面白い。各論に対してあれやこれや言っても雑文 集なので取りとめも無くなってしまうけど、いろんな意味でこの本は「物事に対する新しい視点」を見せてくれる。それも比較的高い位置の。 多分、この本は一神教を信じる敬虔な宗教家や、自らの活動を信じて原潜の入港を阻止に徹夜で並んだりするNGOの人や…そんな一つの視点を信じる人は読まないほうがいいでしょう。多分、切れるハズ。

それ以外の人でいろんな本や考えに対してキャパシティのある人・あくまでも山形さんの言及する各論の定説や一般 常識を押さえた上で対比して読んでみると「ああ、こんな考え方も出来るのね。ちょっと乱暴だけど…」という意味で本書は「面白い」と思う。 特に本書内のNGO(非政府組織)のくだりで「NGOは企業や政府と違って外部からのチェック機能が欠如しており、そもそも暴走しやすい機関となる素質は十分。なんらかの規制も必要だろ」的な内容の所や、社会の たかりの構造と自殺論・プライバシーの本質的な部分は、なるほど卓見。 僕は理解度と言う意味でまだまだですが…いつかこれ位の論はぶちかませるくらいにはなりたいと思っています。

精神的に「大人」な方。是非どうぞ。ちなみに、何故「買うべき度が1点」かと言うと…それは右下の裏ブ ックレビに飛んでみてください。今回は読んだ後でも読んで無くても、ちょっと読んでみたい・興味のあると言う 方であれば是非クリックを。1点の理由がわかります。 それではまた、再来週のブックレビをお楽しみに。

評者→高橋明彦(27):好きなジャンルはもっぱらミステリー。年食ってから一番印象に残った本は京極夏彦「姑獲鳥の夏」。人が死なないストー リーの本も楽しく読めるように鋭意努力中。

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読み終わった方は・・・・【裏ブックレビ】

1点の理由。それは本書のあとがきでも筆者が書いていますが…
山形浩生の公式サイトで、本書の各論の部分はほとんど読めてしまうからです(笑) 単純な評価で言えば★6点くらいが妥当だと思います。知識としてハードルの高さ・本としてのまとまりがイマイチ・最後のクラインの壷のあたりは理屈はわかるけどちょっと蛇足的・「〜を見てもらえば解るけど」が多すぎて一個の本として厳しい(ハイパーテキストでリンクが貼ってあるなら凄く良い文体だと思うけど)などなど、 本としては評価はイマイチですね。 ちょっとでも興味のある人は是非ネットならタダ…なんで著者には印税が入らなくて申し訳ないのですが、これもネットで知識のシェアという事でご容赦いただければと思います。リンクフリーらしいので(笑) というわけで、是非ご一読あれ。おもしろいっすよ。