今週の一冊
「冷静と情熱のあいだ」
(赤):江國香織
(青):辻仁成
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7点 |
本書「冷静と情熱のあいだ」は1999年に発行され、一時期話題になったことも有りおなじみの本かもしれませんが、今度竹之内豊とケリー・チャンにより映画化されるという事で、取り上げてみました。個人的に小説の映画化は成功事例が少なく素直に賛成は出来ないのですが…。世界でも珍しい男女のコラボレーション小説。それが「冷静と情熱のあいだ」赤と青です。
【あらすじ】
2000年5月の25日。この日に再会した二人の男女を江國香織と辻仁成がそれぞれの視点で描く。
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あおいと順正、一組のカップルの出会い・別れ・生活・再会の同じ時間を、あおいの視点で見た赤と順正の視点でみた青…という構成のなかなか面白い試みだと思います。
この本を読む前に注意が必要です。それは、この本は13章の章立てで月刊カドカワに江国香織版(以下「赤」)と辻仁成版(以下「青」)が交互に連載すると言う形式を取っていました。本書を語る上ではこの順番はある種必須条件とも言えるもので、出来る事なら赤の第一章→青の第一章→赤の第二章…と読んでいく事が理想なのかもしれません。それが面倒であっても読む順番は赤からです。これを間違えて青から読むと小説としての魅力が半減してしまうでしょう。その点であまり親切な小説販売形態ではないですね。
まずは江國さんの赤を読みます。正直言わせてもらうと赤だけの点数は5点くらいです。青にもいえることなのですが、どちらの主人公もあまりにもそれぞれの相手(あおい・順正)の思い出に縛られ、現在を犠牲にしすぎています。それが見ている読者にイライラ感すら与えるかも知れません。もちろん優柔不断でない主人公の恋愛小説が成立しずらいのは当たり前ですが(やたら決断力のある主人公は恋愛小説では出てこない。悩まない=話が膨らみづらい)この赤の主人公「あおい」さんに至っては、それが度を過ぎてるほど日々の日常を怠惰に過ごし思い出の中に心をさまよわす表現が多すぎ、物語としての成立さえ危ういような気がします。ただ、全編を追おうイタリアの情景や洗練された江國さんの文体は心地よく、こういう形もありなのかな・・・とは思わせますが、キレイなだけ・詩的なだけ…という印象は否めません。
そして辻さんの青。 こちらも単体での点数は6点くらい。主人公は過去を修復し時間を紡ぐ絵画の「修復士」として過去に拘泥されて、あおいとの思い出を思い出しながら今の彼女芽実との惰性の付き合いの中で生きる順正。耐えがたい女々しさを感じる読者も多かったのではないでしょうか。ずっと他愛の無い二人の約束「あおいの30歳の誕生日・2000年5月25日フィレンツェのドゥオモ(大聖堂)で再会しよう」を心の支えにして、心の重荷にして生きる順正。それをつづる辻仁成の書き方も特筆すべき魅力は感じませんでした。主人公・順正に対しても同様です。ただ、男としては魅力は感じないが、シンパシーは感じることが出来るかもしれません。
その二冊が交わると…魅力は確かに増します。この一冊一冊はあくまでパーツなのでしょう。 この本の興味深い所は、恋愛に対する読者の態度・過去の恋愛・男・女・年齢によって彼・彼女らに対する評価・感じ方が明らかに違うと言う点です。赤は女性・あおいの視点で。青は男性・順正の視点で
冷静と情熱のあいだ…恋愛は常にこの感情の狭間で揺れるものでしょう。題名は凄く好きです。 ただ、この小説に描かれている冷静はすべて偽りです。冷静であろうとも根底には情熱に負けてる。情熱に支配された味気の無い冷静な生活。そして再び情熱の中へと身を投げる。そもそも熱い恋愛とはそういうものなのかも知れないでしょうか?個人的には冷静傾向が強いので情熱に揺られるのも憧れますけどね。
以上ブックレビでした。また再来週をお楽しみに。
評者→高橋明彦(27):好きなジャンルはもっぱらミステリー。年食ってから一番印象に残った本は京極夏彦「姑獲鳥の夏」。人が死なないストーリーの本も楽しく読めるように鋭意努力中。
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