音楽レビ 映画レビ ひとこま画像 2001年12月5日号
 
 【毎月更新ブックレビュー】 著:ポータルサイト勤務 高橋明彦(27)
今月の一冊
「ハリーポッターと賢者の石」
J.K.ローリング 松岡佑子訳
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ハリーポッター…凄いフィーバーですね。本書は欧米で記録的なヒット、更には小学生の指定図書にも選ばれ、子供の読書率がこの本で上がったといわれるくらい影響を及ぼしたらしいです。更には映画も全世界で公開され、興行的大成功もニュースになって、その波は日本にもこようとしています。>12月1日公開。

【あらすじ】
孤児でいじめられっ子のハリーポッター。彼が12歳の誕生日に来た不思議な手紙…それはエリート魔法学校の入学案内だった。そこで彼を待ち受けている夢と冒険・友情、そして生い立ちを巡る大冒険活劇。

かように話題爆発のハリーポッターですが、第一作「ハリーポッターと賢者の石」を、この中で敢えて読んでみました。子供向けという前評判・流行の本はちょっと・分厚い…等意外と読んだ事無い人が多いんじゃないでしょうか?…今回は気になってる貴方の一助となれれば幸いです。

まずぶっちゃけ点数を言いますと…立場によって大きく点数は変わるのが特色ですか。 僕なら2点。一般的欧米の子供なら5点で騒ぐのも無理は無い…ですが日本の子供なら1点かも(笑) その理由はゆっくり。

まず読んで正直な感想を述べますと… ハリーポッターの世界は「古典的な魔法世界、いじめられっ子の恵まれない境遇のハリーの成長、勧善懲悪型悪魔法使いの登場、仲間を作り友情による成敗劇」…うーん、ありきたりすぎるくらいありきたりな構成ですね(笑)。

無理やり褒めるとするならばこんな感じでしょうか…「平易な言葉で子供にも分かる形でストーリーを展開しながら、その情景描写力は繊細かつ卓越。子供たちの生き生きとした描写、描き出される世界のディティールは素晴らしく…まるで自分が魔法にかかったようにその世界に入り込み、その仲間の一員と思い込んでしまうようだ。子供ならず大人までも楽しめる記憶にも歴史に残る大冒険活劇だ。」でしょうか…うーんありがちな書評(笑)映画の評価にも上記のようなステレオタイプな表現が用いられるのでしょうか。

ですが僕の「ハリーポッター賢者の石」の評価は決して良くありません。むしろ「ありきたり」という言葉が最も良く似合う。もちろん及第点では有りますが。なぜこの本がアメリカやイギリスで受けたかさっぱり分かりませんね。不思議極まりない。それでは今月のブックレビューはこれまで…とすると、かなり手抜きです(笑)今日はこの点を深く掘り下げて考えて見ましょう。

欧米の熱狂と、僕の酷評。この差はなんだろうと考えて…ふと思いついたのです。「現実世界と同時に併在する不思議な世界・細かい魔法世界のディティール世界観(=これが本書は特に上手い)・秩序、古典的ないじめっ子、仲間の友達と女の子・助けてくれる強い魔法使い、分かりやすい悪の敵の出現と冒険活劇etc…どこかで見たこと有りません?魔法が21世紀の道具に変えたなら…ほとんど「ドラえもん」の世界ですよね。ハリーなんて外見を含めパクリか?というくらいほとんどのび太そのものです(笑)ドラえもんこそ出てこないですが、そこは魔法が代用してます。まあそれは極端な解釈だとしても、僕が言いたいのは「このような冒険活劇・主人公成長ストーリーならドラクエをはじめ、日本には溢れている」という事です。擦り切れたネタだと。

つまり感想として日本で溢れている独自かつ独創的な「漫画・アニメ」文化が、この「ハリポタ」をつまらないものにしているんではないかと。こういう「漫画チック(マニア心をくすぐる詳しい世界観・誇張・わかりやすい・想像が容易・終わりすっきり)」の物語の日々受容をしなれていない欧米の人には、さぞエキサイティングな物語として目に映るのではないかと考えます。

その代わり日本の10代〜20台の大人(特にFF・ドラクエをはじめとしたゲーム世代)はハリーポッターを見ても既に日本漫画・アニメ・ゲーム文化によって「素直にドキドキできない・楽しめない体」になってると考えても良いと思います。ここから翻って映画はどうか?と考えると…楽しめないかというとそうではないでしょう。今「のび太と恐竜(第一作)」を見ても僕らは感動するように、ハリポタも妥当なストーリーなのでそれなりに楽しめるはずです。シチュエーションも映画向きです=CG=魔法なのでその部分でも楽しめる事が期待できます。

しかし、ありきたりな中でも「ハリポタ」が上手いなと思った点は二点。一つは、独自のスポーツを物語に挿入したと言う点と、子供を馬鹿にしていない上質なストーリー展開です。スピーディなスポーツ「クィディッチ」を挿入したこのおかげで、物語にサブストーリーを入れることが出来、中だるみがなくなる代わりに、スポーツ独特の高揚感・緊張・対決感・スピード感を負荷する事が出来ています。この工夫は効果絶大です。また、「手を抜かない」上質なストーリー。これは、通常の子供向け小説には無い「伏線」や「どんでん返し」をきちんと入れることにより、子供が初めて経験する物語のカタストロフィというかドキドキ感を与える事に成功してるのだと思います。それが受けた理由かと。は味わった事の無い味でしょうか…しかしそれも日本アニメ・漫画には良く使われている手法では有るのですが>日本の漫画はある意味大人向けなので。

それ以外に関しては、日本では特筆に価すべきストーリーではないと思っています。欧米を熱狂させたハリーの魔法も日本では効果が薄いと見えますね…よって2点。

評者→高橋明彦(27):好きなジャンルはもっぱらミステリー。年食ってから一番印象に残った本は京極夏彦「姑獲鳥の夏」。人が死なないストーリーの本も楽しく読めるように鋭意努力中。

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