音楽レビ ブックレビ ひとこま画像 2002年10月9日号
 
【隔週更新映画レビュー】 著:システム開発会社勤務 青木泰子(29)

今週の一本
Dolls」

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ちまたで話題の『Dolls』、期待を胸に試写会に行きました。上映前に案内役のお姉さんは爽やかに言いました。 「この映画はベネチア国際映画祭に出品され、賛否両論を巻き起こした作品です」賛否両論…これは逃げの常套句です。嫌な予感がしました。

監督・脚本・編集、北野武。北野監督って、毎年のように映画撮ってますよね。監督デビューの1989年から14年間で実に10本。しかも、ビートたけしとしての仕事もしながらです。それであのクオリティを保ってきたのですから、ただ者ではない。超人ですよね。でも、もう少しゆっくり撮ってもいいのではないでしょうか。構想何年とか、時間を掛ければよいというものでもないですけど。
出演、菅野美穂、西島秀俊。三橋達也、松原智恵子、深田恭子など。上手い人も下手な人もいましたが、今回、それ以前の問題なのです。
音楽は久石嬢。北野作品ではお馴染みの音楽が、浮きまくってました。画面に表現されているものが音楽について来れてないと言ってもいいでしょう。
衣装、山本耀司。「この作品を私のファッションショーにさせていただく」とのこと。劇中、美しい日本の四季をバックに主役の二人が豪華な衣装を次々に衣替え。待ってくれ、私はファッションショーを観にきたのではない。映画において、衣装など単なる付加要素でしかないのだ。この人は、映画に対する愛の無い人だと思いました。

今作では北野映画の魅力のひとつであるリアリティーを完全に放棄してまして、途中からほとんどファンタジーになるんですよね。北野映画からリアリティーを廃してよいものか、甚だ疑問ではありますが、まあそれは好き好きなのかもしれません。問題なのは登場人物たちの動機付けの不自然さと心情の希薄さ、そして何よりも稚拙な演出にあります。今まで売りだったはずのカメラワークもひどかった。そのあたり、表面的な手法のみを真似て素人が芸術風に撮った映画という印象でした。ほんとに『ソナチネ』や『HANA-BI』の監督が撮ったのか?という感じ。かくして私はこの映画のどの部分にも共感できず、とても退屈な2時間でした。椅子が堅くておケツ痛いし。

あと、ラブストーリーということで、恋愛要素にも一言。「究極の愛」を描いているそうですが、6人の登場人物による3つの愛はどれもなぜか「憐れな女への慈悲的愛」。しかも、そのうち2つは女を不幸にした男が、懺悔の気持ちでその女に慈悲を与えるパターンときた!うーむ、これは…。以下、青木脳(容積600cc)による邪推ですが、これは武自身の懺悔なのでは?
「オイラ、今まで女には申し訳ないこといっぱいしてきたよな。ごめんよ」というメッセージが込められていると考えれば妙に納得できます。共感はできないけど。そんな武の恋愛感のオンパレードにうんざり。愛と慈悲は違うだろう。確かに愛は無償だが、慈悲とは違う。というわけで毎度恒例のセリフを。「そんなの愛じゃない!」

この作品は「今までにない新しい北野映画」として紹介されています。確かに北野映画をワンパターンと評する声もあり、そろそろ何らかの新しい形を打ち出す時期なのかもしれません。しかし、芸術方面に逃げてどうする!逆だろ逆!芸術性が高いという評価に甘えず、映画としての面白さを追求しないとダメでしょう。より甘えてどうするのか!喝ーッ!!ということで、愛の1点をあげます。

ラストシーンが終わりエンドクレジットが流れた瞬間、館内に「どおぉぉ」とどよめきが起こった。その大部分が「疲れた〜」という声だったが、それも試写会場のボロい椅子のせいだけではあるまい。そして、このどよめきの中に私は確かに聞いた、「どうしちゃったんだよ、武〜」という観客の無念の叫びを!今までの数々の名作は偶然の産物なのか?いや、そんなはずはない!あってたまるか!ムキーッ!!いずれにせよ、次回作で何らかの答えが出るのではないでしょうか。でも、観るのが恐いよ。

評者→青木泰子(29):いい映画って少ないですね。年に数本見つかれば多い方。これじゃあまりに寂しい。ならば残ったダメ作品を楽しむしかない。例えダメな作品でもダメなりに楽しく紹介する、そんなレビューになればいいな。

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