音楽レビ ブックレビ ひとこま画像 2002年11月20日号
 
【隔週更新映画レビュー】 著:システム開発会社勤務 青木泰子(29)

今週の一本
たそがれ清兵衛」

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テレビ・雑誌でも、批評家の意見は軒並み好評。構想10年。リアリティーをとことん追求し、従来の概念を打ち破った新しい時代劇というふれこみ。この「新しい時代劇」という言葉にめっぽう弱い私は、辛抱たまらんとばかりに観に行ったのでした。

監督はあの山田洋次。『男はつらいよ』に代表される人情映画を職人芸のごとくひたすら撮り続けてきた監督です。77作目にして初の本格時代劇だそうです。原作、藤沢周平。痛快娯楽時代小説『用心棒日月抄』シリーズは私も若き頃に読んだものです。本作が初の映画化というのはちょっと意外でした。「たそがれ」こと、井口清兵衛に真田広之。清兵衛の幼なじみ朋江に宮沢りえ。敵役に世界的舞踏家(すごい肩書)の田中泯。あと、小林稔侍、丹波哲郎、大杉漣、岸恵子などが出演。

この作品を観るにあたり、私は大きな過ちを犯してしまいました。宣伝文句を鵜呑みにしてしまったのです。つまり「リアルな時代劇」であると。岸恵子のナレーションで始まる冒頭、熱い期待は一瞬にして凍り付きました。
「こっこれは…NHK大河ドラマか?」
さらに畳み掛けるようなお約束設定の数々。貧乏だが善人の主人公(着物ボロし)、貧乏ほのぼの家族(きずな強し)、美人の幼なじみ(性格良し)、目つき険しいニヒルな敵役(顔色悪し)、 目がくりくりの可愛いらしい子供(ほっぺ赤し)、悪の家老(悪人メイク)。
私は声を大にして叫びたい。 「リアルな悪家老(悪人メイク)なぞおらん!」と。 このようなお約束の設定とリアリティーとは対極にあると思うのだが。

リアリティーという面において、「従来の時代劇は失笑するものが多かった」という山田監督。この作品には確かに今までの時代劇にないリアリティーがあるかもしれない。生活臭溢れる貧乏侍の暮らしぶりや、一太刀で勝負が決まったりしないチャンバラシーンなどがそうだ。切り合いで手や首が飛ぶこともない。
がしかし、この映画は従来の映画時代劇にはない、テレビ時代劇や人情映画を彷彿とさせる予定調和だらけだ。そこにはリアリティーのかけらもないぞ。特にこの点が、映画に刺激を求める私にとっては不満でした。悪い意味で、客を裏切らない映画だと感じました。

また、リアルで迫力があると評判の殺陣シーンも物足りなかった。毎年のように「今までにない新しい時代劇」が創られるが、未だに13年前の『座頭市』を超える殺陣を見たことがない。そもそも時代劇のアクションには、致命的な欠点があると思うのです。
つまりそれは、
「斬られるのを待つ斬られ役」
「斬ったように見せて寸止め」
「刺したように見せて、脇に挟んでいるだけ」
「模造刀でも当たれば痛いから手加減」
といったショボショボ感だ。

しかし、時は流れ、今やデジタルの時代。猫も杓子もCGの時代だ。弾丸からハエにいたるまでCGなのですよ。全てマッシーンが都合よく処理してくれるのです。21世紀なのですよ。ジェラルミンの刀、脇に挟んで悶絶してる場合か!デジタル万歳!なんかテンション上がってきた!
よし、この際だから好き勝手言わせてもらおう。
刀はCG。無論、CGに見えないことが大前提だ。リアルさを追求するためにだけ、CGの使用を許可する。超スローで血しぶき舞い、火花散るアクションを『マトリックス』ばりのカメラワークでグリングリン動かす。そんな究極の純日本産アクション映画。これを映像化しようという剛の者はおらんのか!私は『ピンポン』の曽利監督あたりに挑戦してもらいたいと思っておる!

時代劇に予定調和のみを求めるのはもったいない。 時代劇こそ宝の山だと思うのです。 時代劇に激渋アクションを!切に切に願う!

評者→青木泰子(29):いい映画って少ないですね。年に数本見つかれば多い方。これじゃあまりに寂しい。ならば残ったダメ作品を楽しむしかない。例えダメな作品でもダメなりに楽しく紹介する、そんなレビューになればいいな。

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