今週の一本
「火山高」
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アジア映画に注目が集まる昨今、48億ウォン(およそ4億8千万円)を投じた韓国映画が完成。はやりのワイヤーアクションにCG満載の学園アクション、『火山高』です。この映画、予告編が非常に良くできてまして、まさに面白さ保証つき状態。私もかなり安心して観に行きました。して、その実態は…。
監督キム・テギュン、今作が初監督、初脚本作品です。主演に韓国ではアイドル的存在のチャン・ヒョク。ヒロインにモデル出身現役高校生のシン・ミナ。『反則王』で注目を集めたキム・スロほか。音楽は元SIAM
SHADEのギタリストDAITAが全曲書き下ろし。
予告編を観るかぎり、日本産の格闘漫画や格闘ゲームをそのまま実写化したような、激シブ格闘映画に違いないと誰もが思うでしょう。事実、ガクランを着込んだ色んなタイプの高校生と、色んなタイプのオヤジ教師達が登場します。みんな個性的でキャラの立ち具合も悪くありません。特に何人か出てくるオヤジ教師は、みんな揃ってイイ顔オヤジ。とりわけ教頭役のオヤジは顔良し、芝居良しで、中々のオヤジっぷりでした。このオヤジは今後も注目していきたいオヤジですな。そんなキャラクター達が繰り広げるバトル。
だが、肝心なものが足りないのです。それは、格闘シーンにおけるカタルシスです。
主人公のギョンスはその強さが災いして、幾度となく転校を繰返してきました。しかし、9校目となる火山高では自らの力を封印し、暴力を使わないと誓います。この設定が最後までこの作品をダメにしているのです。
喧嘩を売られるギョンス。だがケンカはご法度の身、何とか耐える。さらに侮辱されるギョンス。思わず手が出そうになるが、思いとどまり、我慢我慢。しかし、いよいよ我慢も限界。敵をにらみつける鋭い眼光。怒りに強く握られ震えるコブシ。あおりのBGMスタート。とうとうキレるかギョンス!やっと見せるかその力!と思いきや、寸前で思いとどまり、逆に殴られ気絶。
このパターンをひたすら繰り返すのです。溜めるだけ溜めて、溜めっぱなし。結局、彼は話の終盤までくよくよ悩んでます。
つまり、演出上絶対あるべきはずのカタルシスが存在しないのです。 この映画によって解消される予定だった日頃溜まったストレスも逆に増えちゃう始末。完全な消化不良。
そして、やっとヤル気になったギョンスと学園鎮圧教師五人衆筆頭・数学教師マーとのラストバトルは、雨のグランドを駆けずり回りながらの、カメハメ波的・気の投げ合いに終止するという、ビジュアル的にも盛り上がりに欠ける戦いでした。
そもそも主人公の凄さを見せるのにCG使い過ぎだ。格闘映画の主人公ならもっと体を張れ!キアヌ・リーブスでさえ、へなちょこカンフーであんなに頑張ってるんだぞ!
ちゃんと脚本を練り、起承転結をハッキリさせた上で、もっと観客を楽しませる事を意識して創れば、いい作品になったかもしれません。全く惜しいことです。
余談ですが、主人公ギョンスの顔に妙に見覚えがあって、誰に似ているのかずっと気になってたんです。で、1ヶ月近く経ってやっと分かりました。口元がエンセン井上にそっくり!って、マニアック過ぎますかね…。しかも、口元だけ。でも、この映画によって溜りに溜まったわだかまりが、ほんの一部ですが、初めて解消されたような気がしました。
評者→青木泰子(29):いい映画って少ないですね。年に数本見つかれば多い方。これじゃあまりに寂しい。ならば残ったダメ作品を楽しむしかない。例えダメな作品でもダメなりに楽しく紹介する、そんなレビューになればいいな。
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