音楽レビ ブックレビ ひとこま画像 2003年1月22日号
 
【隔週更新映画レビュー】 著:システム開発会社勤務 青木泰子(29)

今週の一本
T.R.Y.」

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俳優 織田裕二、35歳。主役しかやらないと豪語する男。そんな彼が『ホワイトアウト』以来、2年半ぶりに挑んだ映画が、日・中・韓合作の『T.R.Y.』だ。中国・上海で広大なオープンセットを使い、制作費11億円をかけた意欲作です。スリリングな頭脳戦と息を呑むアクションの連続(チラシより)。日本で数少ないマネーメイキングスターの一人とされる織田裕二の新たなる挑戦!

監督は大森一樹。アイドル映画や一部ゴジラシリーズを撮ってきた監督です。カミソリのように切れる頭脳を持つ詐欺師、伊沢修を演ずるのはもちろん織田裕二。伊沢がペテンを仕掛けるターゲットには、軍服似合いすぎの渡辺謙。相変わらず良い芝居をします。伊沢に仕事を依頼する革命家に邵兵(シャオ・ビン)。また、伊沢をアニキと慕う詐欺仲間として、『リリイシュシュのすべて』で鮮烈な映画デビューを飾った市原隼人が出演しています。

この作品、『スティング』のような痛快詐欺師映画を狙っているようですが、肝心の詐欺シーンがかなり煩雑で断片的なため、ちょっと分かりにくいです。このあたり、「スピーディな展開」と「説明不足」を履き違えている気がしました。しかも、なんか子供だまし。そもそも頭脳明晰、一流詐欺師の伊沢が変装することもなく、本名でペテンを繰り返すのはなぜ?今から騙そうという相手に向かって「わたくし、伊沢修と申します」って、ダメじゃん!

このように、本当に凄いヤツなのか甚だ疑わしい伊沢修。しかしそんな彼を他の登場人物がよってたかって褒め称えます。「さすがは一流の詐欺師だ」とか「さすがアニキ!」とか「日本人は信用できない。だが、この男は別だ」とか。外国人達に一目置かれる日本人をワザとらしく見せられる感じは、まるで高○クリニックのCMのようでした。

あと、伊沢はピーター・ホー演ずる恐怖の暗殺集団「赤い眉」の殺し屋に命を狙われるんですが、驚くべきことに、この殺し屋、眉毛赤いです。そのため、顔を見られただけで暗殺集団「赤い眉」の殺し屋であることがバレます。しかも、武器がなんかショボイ針。その針を手に、白昼堂々と必死で追いかけてくる姿は、別の意味で怖いです。素直に銃使ったほうが早いぞ。

しかしそんなヘボさは些細なこと。なんと言ってもこの作品の最大の売りは、三つ揃えスーツと帽子(提供 山田帽子店)でキメた織田裕二を思う存分堪能できることなのですから。「この映画の見所は織田裕二である」と監督自身も認めてますしね。よって、彼をカッコよく撮るために、様々な試みがなされているわけです。
ある時はカメラ目線の顔面アップでキメッ!(スクリーン全体が裕二顔面)
またある時は真剣な表情を横からアップでキメッ!(毛穴まで見えそう)
皮ジャンで、スーツで、コートでキメショット。
ジャケットにはポケットチーフも欠かさない。織田裕二、秋の着こなし。
実際、この作品のスタッフには裕二専属のスタイリスト、スタイリスト助手、ヘアメイク、ヘアメイク助手などが存在するのだ。あの一見無造作に見えるヘアスタイルも、2人掛かりでセットしているわけか…。髪の跳ね具合が、ただの寝癖にしか見えない私の目は節穴です。

ちなみに、大森監督イチオシの裕二ショットは、汽車の操車場で約束の時間に現れない伊沢を「逃げたのか?」と疑う仲間達の前に、さっそうと登場するシーン。列車が横切る中、帽子を深く被った裕二がスローモーションでカッコよく現れる映像を撮りたかったのだろう。が、ちょっと歩く間に5台くらいの汽車が裕二の前後を横切るのだ。突然の交通量増加にビックリ。演出過剰。裕二も下向いてたら轢かれるぞ。

しかし、何より酷いのがラストのオチ。目を疑うような不条理どんでん返しの連続から、 観客置いてけぼりで強引に大爆破!何としてでも、最後は爆破に持っていきたかったようだが、観客がそれを望んでいると本気で思っているのだろうか。爆破が一番の見せ場だなんて思っているうちは、いい映画など撮れんぞ!

そしてエンドロールで流れる主題歌「We can be Heroes」(Song by 織田裕二)。うぷっ、もう食べられません。裕二でおなかイッパイ。
まだ食べられるという方は、撮影現場密着写真集『織田裕二 in T.R.Y.』 2300円(税別)をどうぞ。ゲ〜ッぷっ。

評者→青木泰子(29):いい映画って少ないですね。年に数本見つかれば多い方。これじゃあまりに寂しい。ならば残ったダメ作品を楽しむしかない。例えダメな作品でもダメなりに楽しく紹介する、そんなレビューになればいいな。

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