音楽レビ ブックレビ ひとこま画像 2003年2月19日号
 
【隔週更新映画レビュー】 著:システム開発会社勤務 青木泰子(30)

今週の一本
トランスポーター」

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次々と撮られるベッソン関連作品。しかし、撮れば撮るほどベッソンブランドの価値が暴落していくような気がします。大量生産の果ての品質低下なのでしょうか。残念です。でも、アイデア自体はどの作品も決して悪くはないんですよね。予告編観ると、やっぱり観たくなってしまう。観たいと思わせる何かがあるんでしょう。ということで、リュック・ベッソン製作、脚本『トランスポーター』、観てきました。

主演はガイ・リッチー作品常連のジェイソン・ステイサム。元高飛び込みの選手という変わった経歴の持ち主です。ベッソン作品、毎度お馴染みのパターンである「男を振りまわす女」役にスー・チー。今回なぜか"HSU CHI"から"SHU QI"に綴りが変わってました。検索サイトにて見られたくない過去が検索されるのを恐れてのことでしょうか…。堂々としてればいいのに。監督はなぜか二人居りまして、本作が初監督となるルイ・レテリエとアクション監督として香港からコーリー・ユン。彼は『X−メン』などのアクションも手がけています。

主人公フランクは、驚異的な運転技術を持つトランスポーター(運び屋)だ。金さえ貰えば愛車のBMWで何処へだって何だって運ぶ。冒頭、そんなフランクの仕事ぶりを披露。このカーチェイスシーンがカッコイイ!ハンドル握ったフランクの素早い動きが素敵です。『TAXi』よりもハードでスタイリッシュなカーアクション映画!こんな映画を待ってたんだ!と思ったのも束の間。ちょっとした出来心から、フランクは運び屋3大ルールの一つ、
「荷物の中身は決して見るべからず」
を破ってしまい、何かが狂っていきます。平穏だったフランクの生活も、この作品自体も…。

この映画、中盤からガラリと印象が変わってしまいます。アクション映画としてのジャンルが変わると言っても過言ではありません。つまり、カーアクションから格闘アクションに。実は運び屋フランクは、退役軍人なのです。軍隊上がりのムキムキボディから繰り出されるパンチ、キック、パンチ、キック。何なんでしょうか、これは…。あの華麗なドライビングテクニックは一体何処へ。もはやトランスポーターちゃうし。運び屋3大ルールなんかよりも、何かもっと大切なものを破られた気がするのは私だけでしょうか。

しかも格闘アクションとしても、なんだかおかしなことになっていきます。特に圧巻なのは、バスの車庫で敵に囲まれての乱闘シーン。ここではコンクリートの床にこぼれたオイルの上での、滑りながらの闘い(この時点で既におかしい)になるんですが、運び屋フランクさん、何を思ったのか、自ら半裸の体に大量のオイルをかぶります。すると、フランクを捕らえようと掴み掛かる男達のごつい手がぬるりつるり。たしかに捕まえにくくはなったようだが…。やがて筋肉と油と筋肉がくんずほぐれつ、ひたすらぬるぬるするという、いかんともしがたい状態に。
大画面で繰り広げられる「男だらけのぬるぬるレスリング大会」。うっ、これは一体…。
その上、フランクさん、敵の手から逃れるために、床を二度に渡って滑ります。
まずは、体育座りの姿勢から地面を蹴ってバックぬるぬる。
さらに、腕を伸ばしたウルトラマン飛行フォームでスライディングぬるぬる。

そんなアクション(ぬるぬるプレイ)を見せられて、一体どう反応したらいいのでしょうか。私には皆目分からなかったので、とりあえず半笑いの顔のまま固まってみました。ですが、もし仮にこのシーンをジャッキー・チェンが演じていたらどうでしょう。それはもうありふれたジャッキー作品として、これっぽっちの違和感もないはずです。「ジャッキー、またこんなことしてる」とさえ思うかもしれません。つまり、中盤は古きよき香港カンフー映画調なのです。しかし、ジェイソン・ステイサムの生まれ持ったシブさと、香港調バカアクションとのギャップがあまりにも激しく、とてつもない違和感を醸し出しています。

そして終盤は、『トリプルX』ライクなお手軽超人アクションへとさらなる路線変更。監督は一体何を撮りたいのか?いや、監督が二人もいることがまずいんじゃないのか?いやいや、そもそもの問題は、なんでもかんでも詰め込もうとしたベッソン脚本にあるのかもしれん。とにかく、この作品には一本筋の通ったポリシーというものがないのだ。

とりあえず、退役軍人としてではなく、運び屋として事件を解決して欲しかった。
ていうか、そうすべき。
この作品のあるべき姿は、「ヘンテコB級アクション映画」ではなく、「超絶運転技術により、すべてを解決するA級カーアクション映画」だと思うのです。

評者→青木泰子(30):いい映画って少ないですね。年に数本見つかれば多い方。これじゃあまりに寂しい。ならば残ったダメ作品を楽しむしかない。例えダメな作品でもダメなりに楽しく紹介する、そんなレビューになればいいな。

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