今週の一本
「ボウリング・フォー・ コロンバイン」
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ブッシュ米大統領のイラク攻撃開始演説から5日後、本作はアカデミー賞最優秀ドキュメンタリー賞を受賞しました。タイムリーというより皮肉と言うべきでしょうか。壇上に上がったムーア監督は叫びました。「ブッシュよ、恥を知れ!」と。
監督、脚本、主演はマイケル・ムーア。野球帽の太ったおっさんという緩みきったルックスですが、その外見からは想像できないほど、知的な視点と鋭いツッコミを持っています。そんな彼がカメラマンを連れて、いろんな人に突撃インタビュー。その中に悪魔的カリスマロッカー、マリリン・マンソンやアメリカ映画史上に残る名優、チャールトン・ヘストンなどが登場します。また、テレビ映像として、ブッシュ親子やクリントン、ラムズフェルド国防長官なんかも出てきます。
テーマとなるのは「銃社会アメリカ」。こんなお堅い題材なのに本作は笑いに溢れています。とにかくおもしろい。その笑いの合間に、疑問や主張が投げかけられます。普段考えないような難しい問題でも、笑いで思考が活性化されるため、そのままの集中力で考えてしまう感じだ。このバランスが絶妙です。ドキュメンタリーに付き物の固さや退屈さを微塵も感じさせません。そして一見ふざけているようで、どんどん核心に迫っていきます。
アメリカでは銃による犠牲者が年間1万人以上にのぼる。これは他の先進国に比べて圧倒的に多い。だが、犠牲者が後を断たないにもかかわらず、多くのアメリカ人が銃規制をかたくなに拒むのはなぜか。この疑問をムーア監督があくなき探求心で紐解いていく。そして、このアメリカ国内の銃社会の構造は、国外へ向けての武力行使の縮図でもあるのです。自由と正義の名のもとに自ら銃で武装するアメリカ国民と、最強の軍事力で世界に君臨しようとするアメリカ合衆国は、驚くほど似ている。
NRA(全米ライフル協会)会長、チャールトン・ヘストンがつい口にしてしまった、"comfort"という言葉。「なぜライフルを家に置き、かつ弾を装填したままにしておくのか?」という問いに、彼は「安心だから」と答えるのだ。つまり、銃が無いと不安なのだ。弾が入ってないと不安なのだ。強盗や暴漢に襲われたことが一度もないにもかかわらず、「ひょっとしたら居るかも知れない敵」に、ビクビクと脅えているのだ。インタビューの席から逃げるように立ち去る彼の弱々しい背中が、強いアメリカの弱い内面を象徴しているかのようだ。
政治家、企業、メディアが癒着しながら、それぞれの利益のために民衆の恐怖をコントロールする。どの国でも行われていることだろうが、アメリカのそれは、個人や国の武装化に直結しているという点で異常極まりない。護身のためにサブマシンガンで武装することに何の疑問も抱かない人々。将来起こるかもしれないテロを防止するために、他国を爆撃することに賛同する人々。無知や盲信だけなら個人の自由だが、それが人を殺すとなれば別だ。
私たちがテレビで目にするニューヨークの反戦デモなどは、アメリカのごく一部分でしかない。ブッシュの決断を支持する人は75%を超えるのだ。ツインタワーに吸い込まれる旅客機の映像によって人々に植え付けられた恐怖は、いつ消えるのだろうか。
評者→青木泰子(30):いい映画って少ないですね。年に数本見つかれば多い方。これじゃあまりに寂しい。ならば残ったダメ作品を楽しむしかない。例えダメな作品でもダメなりに楽しく紹介する、そんなレビューになればいいな。
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