今週の一本
「シカゴ」
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突然歌い踊り出すミュージカル。私たち日本人の中には違和感を感じる人も多いでしょう。かくいう私もその一人です。本年度アカデミー作品賞を受賞したミュージカル映画『シカゴ』、先入観を捨てて試写会へ行ってきました。
監督・振付は舞台の世界で活躍するブロードウェイの寵児、ロブ・マーシャル。映画は今回が初監督となります。スターを夢見る冴えない女、ロキシー役には、ミュージカル初挑戦となるレニー・セルヴィガー。冴えない女役ならお手の物です。その彼女が憧れるスター、ヴェルマ役に十代の頃、ロンドンの舞台で鳴らしたというキャサリン・ゼタ=ジョーンズ。この役でアカデミー助演女優賞を受賞しております。また、凄腕弁護士ビリー役としてリチャード・ギアが出演。原案は1987年にすでに他界しているブロードウェイ・ミュージカルの神と呼ばれた男、ボブ・フォッシー。本作は彼の代表作となる舞台『シカゴ』を映画化したものです。
1年半前に見たミュージカル映画、『ムーラン・ルージュ』には、その全てを悪趣味だと感じた私ですが、本作はとても楽しめました。安っぽい"愛"とか"恋"をテーマにしない脚本にも好感が持てますし、何よりも、観ていて楽しい!それは振り付けと演出の上手さもさる事ながら、役者のガンバリによるものが大きいようです。まず、主演のレニー・セルヴィガーですが、『ブリジット・ジョーンズの日記』で披露した、ぷにょぷにょの肉体がかなりシェイプアップされてまして、汚れがよく落ちそうな洗濯板のような胸になってます。トレーニングの賜物でしょうか、歌も踊りもかなり頑張っていて、初挑戦とは思えない出来。そして、30過ぎても小悪魔スマイル健在のゼタ姐さん。これがびっくりするほど上手いんです。歌ってよし!踊ってよし!ナイス開脚!ナイス股裂き!ゼタ姐さんがこんな才能を隠していたとは!ピチピチタイツがよく似合う、ただのお色気ムンムンはぁはぁ女優じゃなかったんですね。
しかし、パワフルな女性陣に反して、男性陣がちょっと不甲斐なく、特にミュージカルシーンでは迫力の面で両者に大きな差を感じました。その中でもギアがダメ。ちまたではよく"様"付けで呼ばれてますが、あえて呼び捨てにさせて頂きます。ギアは歌も踊りもどこか違う。どこでしょうか。うう〜む。まあ、顔でしょう(きっぱり)。あと、声と。はっきり言ってしまうと、歌うギアは何だかバカっぽいのだ。その歌声はディズニーアニメに出てくるお爺さん風です。ビジュアル的にも、もう少し華があって、動ける役者を起用して欲しかった。彼の場合、華があるというより、鼻があるという感じだ。しかし『プリティー・ウーマン』以来の根強いファンがいるようなので、色男代表としてギアの名があがるのは仕方ないのかも。そんなギアファンに朗報。本作では、彼がシマシマパンツにランニングといういでたちで歌い踊る姿が拝めますので、お見逃しなく。あと、タップもあります(靴音は吹替え)。
ボブ・フォッシー自らが1972年に監督した映画、『キャバレー』でもそうだったのですが、今作も女がどうしょうもなく強欲で身勝手な生き物として描かれてまして、これはおそらく演出家としてモテモテで、役欲しさに言い寄る女は数知れず、二股三股は当たり前だったというフォッシー自身が身を持って経験したことなのでしょう。ですが、彼の作品は決してそれを非難しているのではなく、そんなたくましくもバカな女たちに贈る賛歌であると言えます。女同士の戦いもドロドロした感じがなく、面白おかしく描かれ、痛快で、ときに爽やかでさえあります。
すべての人にお勧めしたいところですが、「歌」と「踊り」を交えてストーリーが進行していくため、この2大要素が楽しめない方、つまりミュージカル嫌いの方には、やはりどうしても辛い作品になってしまうでしょう。ですが、ミュージカル好きの方にはもちろん、好きでも嫌いでもないという方にもチャレンジしていただきたい。本作はミュージカル映画を許せる派か、許せない派かを判定する踏み絵的作品になるのではないでしょうか。
評者→青木泰子(30):いい映画って少ないですね。年に数本見つかれば多い方。これじゃあまりに寂しい。ならば残ったダメ作品を楽しむしかない。例えダメな作品でもダメなりに楽しく紹介する、そんなレビューになればいいな。
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