今週の一本
「ぼくんち」
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監督は大阪の下町を描くことにおいて、右に出るものはいない阪本順治。今回、セリフは関西弁なのですが、舞台となるのは実在しない架空の島です。めちゃくちゃ貧乏な土地という設定上、実在の地名を使うことが出来なかったんでしょうね。貧乏一家の長女、かの子に観月ありさ。育ちの良さそうな彼女が、ピンサロ嬢という初の汚れ役に挑戦。二人の弟、一太と二太にそれぞれ、矢本悠馬と田中優貴。母親役には元・宝塚歌劇団の鳳蘭が出演しています。原作は西原理恵子作のマンガでして、週刊ビッグコミックスピリッツに連載され大好評を博し、第43回文藝春秋漫画賞を受賞しております。
阪本順治作品に一貫して描かれているものとして、「ガラの悪い下町のリアルな風景」と「そこに生きる人達の逞しさや切なさ」などがあります。この阪本ワールドを表現するためには役者達の自然で生き生きとした演技が不可欠です。本作はまずここで大きくつまづいてまして、特に主演の観月ありさがはっきり言って力不足。これは彼女自身の能力不足というより、ミスキャストと言うべきかもしれません。年頃の娘さんが口にしちゃいけないようなセリフも、頑張って喋ってはいるんですが、ただそれだけ。清純派の彼女に「言っちゃいけないセリフを言わせる」ことを一つの売りにしているようですが、それが作品自体に与える価値などゼロに等しい。いやむしろ「お仕事としてお芝居をしている」という現実を、観る側に気付かせてしまうことによって、マイナス要因にもなり得る。あれぐらいのセリフを違和感なくサラリと言える女優じゃなきゃ、この役は務まりません。鈴木沙里奈あたりが妥当という声も聞かれますが、私としては、全く無名の関西人女優を発掘してほしかった。失うものが何もない無名の女優こそ、この役にピッタリなのではないでしょうか。
そして、二人の子役について。長男、一太役の子は非常に上手く、ときどき子供とは思えない渋〜い表情をします。それだけで笑える。こんな悪ガキ、ホントにいそう!その堂に入ったガンの飛ばし方を見てると、彼の将来が心配になります。
それに比べ、次男二太役の子は幼いこともあってか、無理矢理やらされている感じがします。自主的に演じてるようにはとても見えない。この子の無理矢理やらされている感は長女かの子以上です。雰囲気は悪くないんですけどね。
また、阪本監督の作品には独特の笑いがありますが、今回も満載です。ただ、一部かなりしつこく、せっかくの笑いも途中で覚めてしまうことがありました。とても勿体無いです。あと、短絡的なファンタジー描写があったことも気になりました。
このように色々と不満がある中で、最も許せなかったのが人物設定の変更についてです。あまりに大きなネタばれになってしまうので書きませんが、原作の人物設定を大きくいじっている箇所がありまして(観月ありさのキャラをより立たせるためと思われる)、もう台無し!その結果、作品の持つ意味やテーマまでもが変わってしまうほどです。
原作ファンとして言わせて頂きますと、西原理恵子の描いた『ぼくんち』を映画化できるのは、まさに阪本順治をおいて他になく、今回の映画化はそれがそのまま理想的な形で実現した最高の企画だったのです。この原作をいつもの阪本節で撮れば、自動的に傑作になるような、全く無難な組み合わせ。がしかし、いつもの阪本節になにか余計なプラスαがされており、それが作品のあるべき姿を歪めてしまっている。なぜいつも通り、そして原作通りに撮らなかったのでしょうか。約束された成功をあえて避け、冒険するのは良いのですが、変えて良いところと悪いところをちゃんと見極めて欲しかった。
それほどダメな作品ではないのですが、キャスティングの悪さや間違った方向に変更された設定によって原作の良さがかなり損なわれているので、さらに1点減点して、2点とさせて頂きます。原作を読む気はないが映画は観たいという方なら楽しめるかもしれません。ですが、両方楽しみたいという方には、作品としての完成度が高い原作の方を先に読まれることをお勧めします。そのあと映画版を観て、「んなんじゃそりゃーー」と怒りにプルプル震えてみませんか。
評者→青木泰子(30):いい映画って少ないですね。年に数本見つかれば多い方。これじゃあまりに寂しい。ならば残ったダメ作品を楽しむしかない。例えダメな作品でもダメなりに楽しく紹介する、そんなレビューになればいいな。
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