今週の一本
「マトリックス リローデッド」
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衝撃の前作から4年。待ったよ〜。こんなウキウキ気分で劇場に足を運んだのは久しぶりでした。そして、スクリーンに対峙すること2時間、私の目玉はパリパリだったといいます。まばたきする間も惜しいほどの映像。がしかし、その表情は微妙に曇っていたといいます。期待しすぎていたのでしょうか。
監督は今、世界一稼ぐオタク、ウォシャウスキー兄弟。主人公の選ばれし男、ネオにキアヌ・リーブス。ネブカドネザル号船長、モーフィアスにはローレンス・フィッシュバーン。エナメルスーツが素敵なトリニティにキャリー=アン・モス。エージェントを卒業したスミスさんにヒューゴ・ウィービングが出演。ちなみに、前回生き残ったはずのマーカス・チョンが演じたタンクは、現実世界でギャラ交渉決裂、製作者に嫌がらせ電話、脅迫容疑で逮捕、脚本から役を削除、それに怒って製作側を相手取り訴訟と、もうドロドロ。その結果、映画世界では前作と今作の間に死んでしまわれたようです。
まず序盤の40分くらいが、かなり不満。初めて描かれる人類最後の砦、ザイオンでのシーンはまるで『スター・ウォーズ』を見ているかのようでした。そこには思ったよりたくさんの人が暮らしていて、太鼓に合わせて踊りを踊るなど、結構楽しそう。なんかもっと殺伐とした不毛の地で生きるレジスタンスをイメージしていたので、ちょっとガッカリ。全然緊張感ないし。また、モーフィアスが群集に向かってする演説があまりに安っぽく、マトリックスのクールな世界観が台無しです。
しかし、中盤からの怒涛のアクションシーンはさすがです。懲りまくりの映像は質、量ともに前作を大幅に上回っています。めくるめく超スローの世界にシビレっぱなし。ウォシャウスキー印の映像ドラッグに脳がイカレそう!私の前の席に座っていたお子さまも狂喜乱舞(座って見なさい!)。これでこそマトリックスだよ!
前作『マトリックス』による映像革命は、その後、映画界のみならず、あらゆる映像の世界に数々の類似品を呼びました。映画やCMで、やたら画面がスローになってはグリグリ回転。それはもう、いろんな物が回転したものです。またパロディとして、飛んで来る物体をやたらエビ反ってよけるよける。ちょっと前にビデオ化された『クン・パオ! 燃えよ鉄拳』という超おバカ映画に至っては、主人公のクンフー使いが、乳牛の乳首から放たれるミルクをエビ反ってよけるという意味不明さ。
はじめは真似されることを面白がっていたウォシャウスキー兄弟も、あまりに無節操にパクられることにあきれ果て、最後には激怒。そのため今回は、誰にも真似出来ないアクションを目指したそうです。特にネオVSスミス100人の対決シーンで、その執念を見て取ることができます。
パクった奴らへの怒りの鉄拳一発一発が、スミス一匹とお考えいただいてよいでしょう。
ただ残念なのは、テレビで連日タレ流されるCMによって、「見たことがある見せ場」だらけだったことです。思い起こせば、劇場で初めて予告編を見たとき、ホントに鳥肌が立った。本作のアクションを一番楽しんだのは、紛れもなくあの瞬間だった。予告編やCMによる客寄せもいいが、劇場での感動を損ねない程度にして欲しいものです。
さて、最も厄介な部分である、ストーリーについて。今作を単体で理解するのはまず不可能でして、前作を見ていないと全く理解できないどころか、さらにマニアックな方向にイッちゃってます。キーワードとしてはエグザイル(マトリックスから追放される者)、ソース(マトリックスのプログラム本体)、アノマリー(予想できない不規則なもの)など、普通は知らない言葉が続々と登場。ストーリーもちゃんと展開してはいるのですが、そのほとんどが映像ではなく登場人物たちの会話によって行われるため、その小難しいセリフの意味が分からなければ、もうお話に着いていけないという事態になります。この辺りは1995年に公開され、世界中のオタクに支持された日本のアニメ映画、『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』のラストシーンを彷彿とさせます。前作『マトリックス』では、マニアックな内容にもかかわらず丁寧な説明がなされていて、コンピューターなどの知識がない人への配慮も感じられたのですが、今作からはいよいよオタクの本領発揮というところでしょうか。ウォシャウスキー兄弟の「自分達が好きなものを、好きなように撮る」という姿勢が伺えます。
いわゆるオタクを玄人だとして、コンピューターなどとは無縁の素人(例えばうちの両親)にはチンプンカンプンのこの内容。決して万人にお勧めできるものではありません。こんなマニアックなお話を、こんなに広く世に問うて良いものかとさえ思います。ですが一方で、数々の激シブアクションシーンは必見と言えるでしょう。
ラストは、マンガによくある、煽った末の「次回に続く…」的な終わり方でして、この続きをちゃんとまとめられるのかと心配になります。11月公開の次回作、『マトリックス レボリューションズ』でちゃんと納得のいく説明があればいいんですが…。とりあえず、この微妙な感じを引きずったまま、11月22日までおとなしく待ちましょう。
評者→青木泰子(30):いい映画って少ないですね。年に数本見つかれば多い方。これじゃあまりに寂しい。ならば残ったダメ作品を楽しむしかない。例えダメな作品でもダメなりに楽しく紹介する、そんなレビューになればいいな。
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