今週の一本
「シティ・オブ・ゴッド」
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コーヒーとサッカーとカーニバルの国ブラジルからやってきたすごい映画、それが『シティ・オブ・ゴッド』だ。脚本は、舞台となる「神の街」と呼ばれるスラム街出身のパウロ・リンス。監督はもとブラジルのCM演出家で、映画は3本目の監督となるフェルナンド・メイレレス。彼は「ハリウッド映画にはもうウンザリ」と公言してまして、その言葉どおり、この映画にスター俳優はほとんど出演していません。主な登場人物60人のうち、多くが無名のアマチュア俳優、あるいは実際にスラム街からオーディションで選ばれた人たちです。そして、これらのキャストたちにアドリブで芝居をさせることで、ドキュメンタリーのようなリアルさをかもし出すことに成功しています。その結果、台詞にはポルトガル語のスラングがたくさん盛り込まれているそうです。
一言で言えばギャング映画なのですが、登場人物のほとんどが黒人、更にその半数が子供という異色作で、小学生、いや時として幼稚園児ぐらいのチビッコが銃を撃ったり撃たれたりするんだからビックリ。銃片手に半ズボンで元気に走り回る子供たち。この作品に比べたら、日本で政治家が不謹慎だと息巻いた『バトル・ロワイヤル』なんてかわいいものです。でも本作を不謹慎などと言ってはいけません。だって実話に基づいているのだから。
この作品の、キャラクターごとに時間軸を交錯させながら進行していく構成は、『レザボア・ドッグス』に酷似しています。しかしタランティーノが深作欣ニに影響を受け、彼なりに"仁義"を描いたのとは反対に、本作の血で血を洗う戦いは、まさに"仁義なき"と言えるでしょう。また登場人物が多く、話が複雑に入り乱れているにも関わらず、各キャラクターたちはとても個性的で、それぞれの生き様がビシビシと伝わってきました。
暴力とドラッグにまみれたブラジルの日常は地獄絵図のごとく凄惨なのですが、サンバやファンクのリズムに乗ってテンポ良く進められるストーリーには一点の陰りもありません。
斬新なカットや、画面が左右に分割されて同時進行していく手法もそのポップさに一役かっています。
この作品には数多くのギャングが登場しますが、主人公のブスカペだけはギャング以外の職業で身を立てようと奮闘します。凶悪ギャングたちの中で、「間抜けだけどイイヤツ」という彼の存在があるからこそ、共感を持って楽しむことができるのでしょう。
そう、ギャング映画でありながら、私はいつのまにか彼を通して青春映画を観ていたのです。
評者→青木泰子(30):いい映画って少ないですね。年に数本見つかれば多い方。これじゃあまりに寂しい。ならば残ったダメ作品を楽しむしかない。例えダメな作品でもダメなりに楽しく紹介する、そんなレビューになればいいな。
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