今週の一本
「座頭市」
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希有の映画人、勝新太郎が亡くなって6年。6月には7回忌法要がありました。当日開かれた「偲ぶ会」には森繁久弥から中曽根元首相に至るまで、生前から親交のあった各界の著名人が出席。そこにはもちろんビートたけしの姿がありました。
監督・脚本・編集は北野武。我らがヒーロー、座頭市にはビートたけし。ライバルとなる凄腕浪人、服部源之助に浅野忠信。数々の映画で活躍してきた彼も、北野作品への出演は初めてです。旅芸者の姉妹(姉弟)、おきぬとおせいの二人に大家由裕子と橘大五郎。博打好きの遊び人、新吉にガダルカナル・タカ。他に大楠道代、岸部一徳、柄本明などが脇を固めます。音楽は鈴木慶一。タップダンスシーンの曲はお見事。
今回、北野監督には2つの課題があったはずです。1つは過去のどんな時代劇とも違う「北野武の時代劇」を作り上げること。もう一つは、実に映画で26作、テレビシリーズで100話に渡って勝新太郎が演じ続けた座頭市とは違う「ビートたけしの座頭市」を演じきること。北野武が撮るからには、普通の時代劇やお馴染みの座頭市であってはならないと、監督自らが意識していたはずです。
本作のストーリーは、過去の『座頭市』シリーズはもちろん、いろんな時代劇や時代小説の定番となるネタや設定をつなぎ合わせたようなお話です。すでに使い古された「カタキ討ちネタ」や「盗賊ネタ」を軸にしており、さらにライバルの剣豪やお調子者の博打打ちキャラを配するのもよくあるパターンです。脚本に費やした労力は過去の北野作品中、最も少ないかもしれません。また、役者の演技も典型的な時代劇ノリでして、斬られたときの大袈裟な芝居や悲鳴などは既存の時代劇にかなり忠実です。
このように大枠では時代劇の常識を守っていますが、ここに様々な北野的演出が加えられています。画面の色調は時代劇ということもあって、茶色っぽいシーンが多いのですが、暗い場面ではちゃんと"キタノブルー"になっていますし、ガダルカナル・タカが一手に引き受けるコントのようなお笑いも、北野作品ならでは。また、随所に踊りやタップが挿入されており、観客の息抜きに一役買っています。これらの付加要素がありきたりの時代劇になるのを防いでいるわけです。時代劇という初めて挑戦するジャンルで、かつてないほどエンターテイメントに徹しているにもかかわらず、シッカリと北野作品になっています。
本作ではほとんどのチャンバラシーンにCGが使用されています。たまにショボイCGがあるのが残念ですが、血や刀をCGにするだけで段違いの迫力。やはりこれからのチャンバラ映画にCGは必須でしょう。浅野忠信扮する服部が提灯持ちを刺し殺すシーンでは、その躊躇のない突きにゾクリとしました。そして今回のリメイクにおいて、一番心配だったのが座頭市の居合抜き。あの速い動きは誰にでも出来るものではありません。しかし、たけしの居合は勝新に引けを取らない驚きの速さ!素晴らしい。
私は1989年に撮られた『座頭市』が大好きです。勝新太郎が監督・製作・脚本・主演した最後の座頭市。確かに粗削りな作品かもしれない。でも中盤、市が宿屋に入ってから出るまでのシーンは、日本映画史に残る名場面だと思っています。そんな私にとって、「座頭市=勝新太郎」であり、誰であろうとこれを上書きできる人はいません。はっきり言って、今回のリメイクもあまり歓迎していませんでした。しかし、今回出来上がった座頭市は全くの別物。小綺麗な紺色の着物、金髪、赤い仕込み刀などのカラフルな外見や、丸腰の相手を背中から斬りまくる非情さなど、かつての小汚い格好や人間臭いイメージを払拭したスタイリッシュでマンガのような座頭市なのです。ここまで違うと、もう別人。どんな設定変更をされても許してしまいます。可能な限り勝新版との差別化を図り、別の座頭市を新たに作るという北野監督のもくろみは見事成功しています。
※ここから先は大きなネタバレを含んでいます。まだ未見の方はご注意下さい。
実はこの映画、たけし演ずる座頭市の目が見えているのか、見えていないのかで観客によって意見が分かれるという不思議な作品なのです。盲目の居合の達人というキャラクターに対して「見えてないのにあんなに強いなんてオカシイよな」と以前から疑問に思っていた北野監督による、皮肉を込めたお遊びが原因でして、それをどう受け取るかで解釈が変わってしまうのです。その発端となる飲み屋の親父の台詞は、北野監督自身の疑問を代弁しているのでしょう。しかし、このシーンがあまりに不自然で、残念なことに映画としての完成度を下げてしまっています。市のあの瞳を見て発するセリフとしては、どう考えても不自然!娯楽作品だからといって、何度もドンデン返しを入れる安易さもどうかと思うが、それ以前に強引すぎる。そんなにやりたいのなら、もっと練った上で違和感なくやってほしかった。作品で遊ぶのもいいけど、中途半端はいけないぞ、タケちゃん。
評者→青木泰子(30):いい映画って少ないですね。年に数本見つかれば多い方。これじゃあまりに寂しい。ならば残ったダメ作品を楽しむしかない。例えダメな作品でもダメなりに楽しく紹介する、そんなレビューになればいいな。
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