音楽レビ ブックレビ ひとこま画像 2003年10月1日号
 
【隔週更新映画レビュー】 著:システム開発会社勤務 青木泰子(30)

今週の一本
ドラゴンヘッド」

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聖子も大絶賛!望月峯太郎の大ヒットコミックを映画化。ひと昔前なら映画化不可能とされるようなスケールの作品ですが、それを可能にしたのがウズベキスタンに造られた広大なオープンセットでの2ヶ月に及ぶロケと最新CG技術。廃虚と化した東京がリアルに描き出されています。平和な世界に突如訪れた終末。その荒廃した世界の果てにあるものは?!

監督は『NIGHT HEAD』、『アナザヘブン』の飯田譲治。主演は『ウォーターボーイズ』の妻夫木聡。修学旅行帰りの高校生、テル役です。そして彼の同級生アコ役には、松田聖子の愛娘、SAYAKA。劇中、彼女が「ヤダ、ヤダァ」と駄々をこねる姿はとてもリアルで、ある意味圧巻。ホントにイヤそう。さらに「もう、帰りたいよぅ」なんて言うと、撮影ほったらかしてホントに帰国しちゃいそうです。ひょっとしてSAYAKA、演技派なのか?他には同級生ノブオ役として、ドラマ版『ウォーターボーイズ』の山田孝之が出演しています。

レンタルビデオ店に行くと、最近のパニック映画の多さに驚かされます。かつては莫大な制作費を必要とするジャンルだったのが、デジタル技術の進歩によって比較的安価に作れるようになったからでしょう。もうネタが無くなるぐらいの乱立ぶり。火山の噴火、大地震、巨大竜巻、巨大隕石、巨大グモ(それ違う)など様々です。しかし、本作はそんなハリウッド産パニック映画とは一線を画するものです。これから起こる災害や危機に対して、人類としてどう立ち向かうのかという視点は一切ありません。既に起こってしまった後、終わりつつある世界を描いているのです。

しかも、「一体何が起こったのか、世界は今どういう状況なのか」という事が明確に語られることはありません。パニック映画にありがちな「学者の見解」や「政府の方針」は全くなし。この極端な情報不足によって、私達は登場人物と同じ状況を共有できるというわけです。『ドラゴンヘッド』という作品の素晴らしさは正にコレであり、終末世界でのサバイバルを登場人物を通じて、追体験出来ることにあると思うのです。

しかし映画版『ドラゴンヘッド』の主人公テルとアコに、私は何の共感も湧きませんでした。だってこの2人、全然頑張らないんだもん。サバイバルらしきことをほとんどしないんです。漫画ではあれだけ必死に生きようとしていたのに、今回の2人はただオロオロと逃げ回り、トボトボと歩くだけ。すごく無気力な感じなんです。服や靴を見つけては拝借し、サバイバルに必要なグッズをあさり、ガスマスク片手に崩壊した街を歩く、地に足のついた漫画版のたくましい2人は何処へやら。君達にはボロボロになった制服を着替える気力すらないのか?もっと気合入れろ!知恵を絞れ!そんなことで生き残れると思っているのか!

しかしこの2人にはそんな気合も知恵も全く必要ないようでして、すごく衰弱しているかと思えば、ちょっと目を離した隙に自然に回復してたりします。基本的には寝るだけで回復。食べるものが無くてどんどん衰弱していく姿が痛々しかった『火垂るの墓』や『戦場のピアニスト』とは似ても似つかない”ぬるさ”。さらに、乗ってる新幹線が事故ろうが、車が猛スピードで横転しようが、全然平気。驚くべきことに、飛んでるヘリから地面に落下しても骨折一つしません。「落ちる前よりちょっと汚れたかな?」ぐらいで済んでしまいます。ほとんど不死身といっても過言ではない。

漫画『ドラゴンヘッド』を描くにあたって、望月峯太郎は必死でリアリティを維持しようとしていたはずです。それは世界の終わりにという極めて非日常的な世界を読者に納得させ、引っぱり込むために必要不可欠だからです。本作がその作業をしていないのは怠慢と言わざるを得ない。崩壊した街を幾らCGでリアルに描いても、そこで生きる生身の人間をリアルに描けていないのは致命的です。リアリティをお座なりにして、混沌とした狂気の世界のみを描いているため、まるである種のゲテモノ前衛映画を見せられているかのようでした。ただの地獄巡りツアー映画にしてどうする!これじゃ『ビルとテッドの地獄旅行』ならぬ『テルとアコの地獄旅行』だよ。ただひたすら非現実を描くのではなく、現実味のある非現実を描かないとダメでしょう。

本気で生き残る気が無さそうな2人からは「生への執着」は感じられないし、何をされても死にそうにない2人からは「死への恐怖」も感じられませんでした。そんな不死身の男、テルがラストに叫ぶキメ台詞、「絶対生き続けてやる!絶対、生き続けてやるぅー!!」。そんなに力まなくたって、君なら素で生きていけるよ。

評者→青木泰子(30):いい映画って少ないですね。年に数本見つかれば多い方。これじゃあまりに寂しい。ならば残ったダメ作品を楽しむしかない。例えダメな作品でもダメなりに楽しく紹介する、そんなレビューになればいいな。

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