音楽レビ ブックレビ ひとこま画像 2003年10月22日号
 
【隔週更新映画レビュー】 著:システム開発会社勤務 青木泰子(30)

今週の一本
フレディVSジェイソン」

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今から20年前、あなたは何をしていましたか?あの頃、映画界はスプラッタホラーの全盛期でした。スプラッタ(splatter)とは「(水などが)パチャパチャはねる」という意味でして、パチャパチャ音がするぐらい血や内臓が飛び散る恐怖映画がスプラッタホラーというわけです。80年代には、そんな映画が今ではちょっと考えられないくらい量産されました。『13日の金曜日』シリーズ過去10作のうち8作が、また『エルム街の悪夢』シリーズ過去7作のうち5作が80年代に撮られた作品なのです。そして新しいスプラッタムービーを模索しつつも次第にマンネリ化し、90年代にはブームもすっかり下火になってしまいました。血がドバドバ出るだけの恐怖映画に観客が飽きてしまったのです。

しかし昨年、おバカスプラッタホラー『ジェイソンX』が公開され、8年ぶりにジェイソンが帰ってきました。スプラッタホラーにもともと含まれていたお笑い要素をさらにパワーアップさせたバカ映画として、見事に復活を遂げたのです。そして今年、そのジェイソンの手を借りて9年ぶりにフレディが復活!遂にホラー界の2大スターによる夢の共演が実現しました。

製作は初代『13日の金曜日』を監督・製作した、ショーン・S・カニンガム。監督は香港出身のロニー・ユー。「ファック」とか「ファッキン」とか言う回数だけはすごい映画、『ケミカル51』を撮った監督です。フレディにはシリーズ通して演じてきたロバート・イングランド。ジェイソンには初挑戦のケン・カージンガーを起用。過去4作でジェイソンを演じた、下唇の内側に“KILL”タトゥーを持つ男ケイン・ホッダーはなぜか降板。「ジェイソンのことが分かるのはオレだけなのに、なぜだ!」と抗議するも、製作側からは「身長(190cm)が低い」とか「目が気に入らん」といった歯切れの悪い意味不明の回答しかなく、ケインさん激怒のご様子。

まず注意が必要なのは、この作品が『エルム街の悪夢』をメインにしているということです。ジェイソンに比べてどうもマイナー感が漂うフレディですが、みなさん覚えてますかね。帽子をかぶり、緑と赤のしましまセーターを着て、右手にナイフのような爪を付けたオシャレさん。夢に侵入し、寝ている人を悪夢によって惨殺する殺人鬼です。本作は、この『エルム街の悪夢』の世界にジェイソンがゲスト出演しているという感じなのです。

舞台となるのはエルム街。ある方法によってフレディの存在自体を忘れ、夢にも見ないようにすることに成功した住人たちが平和に暮らしています。しかし、自分が忘れ去られたことに激怒したフレディは、殺人鬼ジェイソンを利用して再びエルム街を恐怖に陥れようとします。つまり、フレディがジェイソンの夢に侵入し、操ろうとするわけです。この導入部がかなり強引でして、もう無理やり2人を共演させています。

中盤までは昔ながらの典型的なスプラッタホラーでして、あまりに見慣れた展開にとても懐かしい気持ちになりました。ショッキングシーンがとにかく古典的なのです。例えばこんな感じ。

湖で泳ぐ全裸美女。しかし、あやしい人の気配が…。→慌てて岸に上がり、脅えて逃げ出す美女。→突然目の前にジェイソン登場。→ジェイソン、美女をナタでブスリ。

どうですか、この古典的展開。懐かしいですよね。さらにこんなシーンもありました。

若い男女がベッドの上でえっちっち。→そのあと、女はシャワーへ。→ベッドに一人残った男の前に、ジェイソン登場。→ジェイソン、男をナタでメッタ刺し。

かつて幾度となく見てきた何のひねりもない惨殺シーンの連続。はるか遠い昔、私がまだ中学生だった頃、ビデオを借りてキャーキャー大騒ぎしながら見た記憶が甦る。はぁぁ〜、あの頃は私も純粋(ピュア)だった。しかし今や生活に疲れた30女。申し訳ないが、これっぽっちも怖くない。怖いどころか、何も感じない。まるでお寺で座禅を組んでいるときのように無心の状態。殺戮シーンを見ている私の脳からは、α波すら出ていたかもしれません。とてもリラックスして見ることができます。かつてはショッキングだったシーンに何の感情も湧かないなんて、月日の流れというのは恐ろしいものです。劇中、「フレディは夢の中に現れるから、みんな寝ちゃダメだ!」というお決まりの展開になるんですが、あまりにリラックスし過ぎた私の方が眠気と戦うハメに…。

後半になってやっとタイトル通りの展開になり、ようやくおバカ映画としての本領を発揮。ラスト30分は結構楽しめました。しかし私個人としては、本作のおバカ指数は『ジェイソンX』にちょっと及ばないと感じました。せっかくの共演なんだから、もう少しハメを外しても良いかなと。まあとにかく、各キャラクターに思い入れの強い人ほど楽しめる作品です。ファンの方は必見でしょう。

2大ホラースターを無理やり共演させた本作の脚本は、強引すぎるところが確かにあります。ですが、10年近く出番がなかったフレディというキャラクターをすっかり忘れてしまった私達観客に、昨年返り咲いたジェイソンという人気キャラを使って思い出させてくれたという現実は、本作のストーリーと見事にシンクロしており、そういう意味ではこの脚本はとても良くできていると思うのです。フレディの「オレのことを忘れるな!」という叫びは私達に向けられているのではないでしょうか。

評者→青木泰子(30):いい映画って少ないですね。年に数本見つかれば多い方。これじゃあまりに寂しい。ならば残ったダメ作品を楽しむしかない。例えダメな作品でもダメなりに楽しく紹介する、そんなレビューになればいいな。

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