音楽レビ ブックレビ ひとこま画像 2003年12月3日号
 
【隔週更新映画レビュー】 著:システム開発会社勤務 青木泰子(30)

今週の一本
マトリックス レボリューションズ」

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観たい作品があろうとなかろうと、私は2週に1度は映画館へ足を運びます。そのためか、私の体内にはどんな凡作駄作にも耐えうる免疫があるようでして、観る前から明らかにダメダメオーラを発している作品にも平気で1800円という大枚をはたき、ガラガラの劇場にも平気で飛び込むことができます。ときには覚悟していた以上の強烈なダメさにヘロヘロになりながらも、2週間たてばケロリと立ち直り、また懲りずに劇場へ向かうのです。ですが今回、かなり凹みました。自分でも不思議なくらい。おそらく大好きなシリーズだったから、期待し過ぎたんでしょう。もうあれからひと月近く映画を観てないよ…。

監督はウォシャウスキー・ブラザーズ。哲学大好きラリー・ウォシャウスキー(兄)とアニメ大好きアンディ・ウォシャウスキー(弟)の仲良し兄弟。主演は富士額のナイスガイ、キアヌ・リーブス(39)。39歳といえばラッセル・クロウやニコラス・ケイジと同い年。とてもそうは見えません。ピッチリ横分けネエさん、トリニティーにはキャリー=アン・モス。めっきり活躍の場がなくなったモーフィアスには、ローレンス・フィッシュバーン。宿敵スミス氏にヒューゴ・ウィービング。今回、大活躍のナイオビにはジャダ・ピンケット・スミス。大阪の某劇場にて、何と彼女を発見!「おーっ!」と思ったら、ただのコスプレの人でした…。予言者オラクルは、演じていたグロリア・フォスターが糖尿病の合併症で2年前に急逝してしまい、代わってメアリー・アリスが演じています。あと、新キャラのトレインマンって、『ゴースト ニューヨークの幻』で見た覚えがあるのだが、気のせい?

マトリックスシリーズの魅力は個性的なキャラクターであり、超絶アクションであり、さらに奇想天外なストーリーだと思うのです。しかし、本作ではその全ての魅力が半減しています。順番に検証してみましょう。

本シリーズの登場人物はみんな魅力的ですが、それは何故か?渋いコスチュームに身を包んだクールなルックスがステキだからです。超人的な能力を駆使して闘う姿がステキだからです。つまり、マトリックス(仮想世界)にいる彼らがカッコイイのです。しかし本作ではザイオンを中心とする現実世界が主な舞台。カンフーは使えないし、高くジャンプすることすらできない。悲しいかな、そこでは彼らもただの人。そのためか逃げ回ってばかりなのだ。おまけにグラサンもなけりゃ、着てる服もボロッちいしね。よって魅力半減。

アクションシーンはどれも“ごっこ”っぽい気がしました。スローモーションで柱に隠れての銃撃戦(マトリックスごっこ)。ホバークラフトで狭い道を急いで通過(スターウォーズごっこ)。空中に浮いての殴り合い(ドラゴンボールごっこ)。せっかくのアクションも手垢にまみれた感じです。唯一新しいものがあるとすれば、ロボでしょうか。でも、あのロボってカッコイイの?乗ってる人、剥き出しなんですが…。しかも弾切れのときは、人が台車をコロコロ転がして弾を運ぶんだもん。ロボなのに、自分で弾をセットできないなんて、悲しすぎる。そんなんでいいの?それともロボのことは、しょせん女の私には分からんのでしょうか?教えて、ロボ好きの男子諸君。

完結編のストーリーとして、あのラストは決して悪くないと思うんです。ちょっぴり分かりにくいけど、とてもハッピーなラストですし。しかし、やはり2作目後半からのストーリー展開は大失敗だと思います。私としては、機械が現実世界から攻めてくることに対して、人類はあくまで仮想世界から攻め続けて、そっち側から親玉まで辿り着いて欲しかった。 これは想像ですが、当初は監督もそうするつもりだったけど、真の敵へ通ずる“ソース”なるものを映像化できなかったということなのではないでしょうか。この3作目でいよいよ”ソース”の扉を開ける、そういうクライマックスがあってもよかった。“ソース”への扉を開けなかったのは監督の逃げではないかと思うのです。あの扉の向こうに何があるのかを映像化できなかったのが、最大の誤算なのでは? そして、その苦肉の策となるのが主人公ネオの超能力。ネオ本人にも謎だったようでオラクルに「なぜ、考えただけで敵を破壊できたのか?」と尋ねます。すると彼女はこう答えます。「選ばれし者の力がこの世界を超越したのよ」…え?それだけ?そんなの、「どうしてゾウさんはお鼻が長いの?」という問いに、「それはね、長くなったからよ」と答えるのと同じだぁ!うぐぅ、まあよい。大目に見よう。がしかし、それならせめてネオの精神が世界を超越し、敵を破壊する過程を映像で見せなさい。手かざしだけで済ませるなと。今まで映像化困難なものに真っ向から挑戦してきたマトリックスシリーズだけに、これら挫折は本当に残念。

かつてSF作家アイザック・アシモフは『スターウォーズ 帝国の逆襲』を試写した直後、おもむろに立ち上がり、「今すぐ続きを上映しろ!」と叫んだそうです。完結編が公開されたのはその3年後。それを思うと、たった半年待っただけで本作を観られるということはとても幸せなことなのかもしれません。でもこの程度の出来なんだったら、あと4、5年かかってでも、もっと良い作品にして欲しかった。

余談になるかもしれませんが、最後にひとつ。4年前、第1作目『マトリックス』を見たとき、この作品には映画製作現場という第一線で活躍するオタク監督から、部屋に閉じこもってインターネットやゲームの画面ばかりに夢中になっているオタクへ向けてのメッセージがあると思っていました。つまり、「非生産的な仮想世界から足を洗って、現実の世界で苦しくとも頑張って生きろ」という熱いメッセージです。でも終わってみれば、この映画自体がすでにゲーム化されているという矛盾。さらに来年にはオンラインゲームというインドア娯楽の最前線とも言える分野に商品展開するそうです。金儲けしやすい方へまっしぐら。まあ、娯楽として面白ければいいんでしょうが、ちょっとねえ。このあたりに1作目が撮られるまでと、それ以降とで、製作側の志に大きな変化があるように思えてならないのです。それもまた、厳しい現実ということでしょうか…。

評者→青木泰子(30):いい映画って少ないですね。年に数本見つかれば多い方。これじゃあまりに寂しい。ならば残ったダメ作品を楽しむしかない。例えダメな作品でもダメなりに楽しく紹介する、そんなレビューになればいいな。

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