音楽レビ ブックレビ ひとこま画像 2004年1月7日号
 
【隔週更新映画レビュー】 著:システム開発会社勤務 青木泰子(30)

今週の一本
ラスト サムライ」

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海外の映画に登場する“Japan”には、ほとほと泣かされてきた。「間違った日本」のナント多いことか!『007は二度死ぬ』で登場したヘナチョコ忍者軍団。『インディペンデンス・デイ』で一瞬映るアナクロ日本司令部。間違っているだけならまだしも、明らかに悪意がある作品も少なくありません。ショーン・コネリーが日本通の刑事を演じた『ライジング・サン』に登場する日本人は、警官相手に名刺交換したり、寿司を裸の女に盛って食べたり(女体盛りってヤツですか)、とにかく酷かった。また、『ショーガール』にはストリップショーにかぶりつく日本人スケベサラリーマンが登場し、鼻の下を伸ばした無様な姿をさらしています。このように、今まで描かれてきた日本は間違いだらけ(最後の例を否定する自信はないが…)。一部の欧米人にとっては、いつまで経っても「日本=フジヤマ、ゲイシャ、サムライ、ハラキリ、ニンジャ、スシ、エロリーマン」なのだ。でも本作は大丈夫。何たって、日本が大好きな人達が撮った映画なんだもん。

監督は『グローリー』や『戦火の勇気』など、戦争ドラマを得意とするエドワード・ズウィック。日本に魅了されるアメリカ人、オールグレン大尉に扮するのはトム・クルーズ。来日の際には、寺巡りからパチンコまでをこなす日本通です。日本の未来を憂うサムライ、勝元を演ずるのは渡辺謙。謙さんはどんな作品に出てもホントに無難にこなしますよね。しかも今回は鎧を着たシーンが多く、渋すぎ。鎧武者姿が最も画になる俳優でしょう。男だらけの本作で紅一点となる、たか役には小雪。楚々とした日本女性を演じています。やたらと着替えや行水をトムに覗かれてしまうという、「水戸黄門における由美かおる」的ポジションもこなしています。でもポロリはないよ。厳格なサムライ、氏尾役に真田広之。また、日本一の斬られ役・福本清三が寡黙なサムライとして、とてもいい味を出しています。

冒頭、船で来日するオールグレン大尉。まずこのシーンで、横浜港の背後にそびえる巨大富士に度胆を抜かれました。実はあの富士山、いやあえてフジヤマと呼ぶべきあの山は、まず目にした真田広之が、「富士山はそんなにデカくないんですが…」と指摘した結果、小さく修正されたフジヤマなのだ。もともとの大きさは一体どれ程のものだったのか…。更に、南国っぽい植物が生えてたり(ロケ地ニュージーランド)、ニンジャが登場したりと、時代考証もかなり大雑把。日本人なら首を傾げるところが一杯です。がしかーし!これらの間違いは取るに足らない些細なこと。この作品が描きたいものは”日本”であって、”日本史”ではないのだ。よって、史実と違うことはさほど問題ではないでしょう。本作にはそれを補って余りある日本らしさがあるのです。

まず誉めるべきはキャスティングでしょう。日系アメリカ人俳優を使わず、日本人俳優を起用し、しかもその人選はかなり的確です。そして、それぞれが生き生きとした演技を見せてくれます。彼らは日本文化についてのアドバイザー的役割も兼ねていたようでして、役者としての出番がないときでも、出来る限り現場に足を運んだそうです。この作品が描く”日本”にさほど違和感を感じないのは、彼ら俳優陣の努力の賜物ではないでしょうか。

また、”日本人”を描こうとする姿勢にも好感が持てます。欧米から見て滑稽に写るであろう日本独自の風習だけにとらわれず、その精神面にこそ重点が置かれているのです。これ程までに”日本の心”を描こうとしたハリウッド映画がかつてあっただろうか。己を磨き、主君に仕えるという、言わば私利私欲と対局にある精神を持つサムライ達が、美しく描き出されています。

そしてその先にあるテーマは、異文化との融和、古きものと新しきものの融和です。 サムライ達が銃を使わないのも、”刀”と”銃”を対比させることで”古きもの”と”新しきもの”を区別しやすくするため。 「古いものは新しいものに駆逐されていくものだが、その中には失うにはあまりに惜しいものもある」これを分かりやすく伝えるため、サムライ達の暮らしが単純化され、極端に美化されているのでしょう。 近代化において無闇に切り捨ててきた文化や伝統の中には、捨てるには惜しい美しいものがあったのではないかと、改めて考えさせられます。

私も号泣してしまった本作。良い作品だと思うんですが、ひとつ気になる事があります。ズウィック監督が1989年に撮った作品、『グローリー』についてです。アメリカ南北戦争を描いた戦争ドラマなのですが、大枠のストーリーはこんな感じ。

− あらすじ −
北軍の指揮官ロバートは、初めて組織される「黒人だけの部隊」を訓練するよう命じられる。黒人特有の文化や境遇に戸惑いながらも、次第に黒人兵士たちと心を通わせていくロバート。いつしか彼らは厚い信頼関係で結ばれていく。やがて部隊は難攻不落とされるワグナー要塞の攻略に自ら志願する。ロバートを先頭に、黒人兵士たちは人間としての誇りをかけて、玉砕覚悟で無謀な突撃を仕掛けるのだった。その後の北軍勝利の影に、人種差別を乗り越えて戦い、死んでいった熱い男たちがいた事を決して忘れてはならない。

何だか似てませんか?ひょっとして黒人兵士とサムライを入れ替えただけ? いいの?この焼き直し。でも、世間はサムライブームとかで盛り上がってるみたい だし…。まあ、気付かなかったことにするか。

もしこの作品が日本人の手によって撮られていたなら、描かれている思想について多くの物議をかもしたことでしょう。ハリウッドだからこそ軽く描いてしまえる内容なのではないでしょうか。 右も左も考えず、男の生き(逝き)様を描いたハリウッド大作として楽しむべきなのかもしれません。しかし本作には、日本人のアンテナにしか届かないメッセージが確かに存在するのです。

評者→青木泰子(30):いい映画って少ないですね。年に数本見つかれば多い方。これじゃあまりに寂しい。ならば残ったダメ作品を楽しむしかない。例えダメな作品でもダメなりに楽しく紹介する、そんなレビューになればいいな。

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