音楽レビ ブックレビ ひとこま画像 2004年1月21日号
 
【隔週更新映画レビュー】 著:システム開発会社勤務 青木泰子(30)

今週の一本
バレット モンク」

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平和な我が家のお茶の間に、突如として響き渡った謎の言葉、「ダンガンボ〜ズ、ダンガンボ〜ズ、ダンガンボ〜ズ」。一体何事かと振り向けば、ブラウン管には2丁拳銃を構えたチョウ・ユンファの姿がありました。しかも、製作はジョン・ウーです。チョウ・ユンファ&ジョン・ウーのコンビ復活かと思いきや、監督はポール・ハンターというMTV出身の若手(弱冠22歳)。ちょっと残念。主演のチョウ・ユンファは不死身のチベット僧役。その弟子となるスリの名人カー(変な名前)を『エボリューション』、『ファイナル・デスティネーション』のショーン・ウィリアム・スコットが演じます。ヒロインのバッドガールには、『パール・ハーバー』で看護婦軍団の一人(途中で死ぬ人)を演じたジェイミー・キング。音楽はリュック・ベッソン作品でお馴染みのエリック・セラが担当しています。

「チョウ・ユンファと2丁拳銃」と言えば、ジョン・ウー監督の原点とも言える義理人情バイオレンスムービー、『男たちの挽歌』です。2丁拳銃がトレードマークのユンファが死んじゃうラストは壮絶でした。その続編、『男たちの挽歌2』にもユンファは出演。「前作で死んだ男(ユンファ)には、実は双子の弟(ユンファ)がいた」という、まるで3流推理小説のオチのような設定で再登場し、さらに激しい2丁拳銃アクションを見せてくれました。

そんな過去を知らなくても、『バレット モンク』のCMやポスターを見た人なら、誰もが「ユンファ扮するチベット僧が2丁拳銃を撃ちまくる映画」だと思うでしょう。残念ながら違います。まず、タイトルからして違うのです。“Bullet(弾丸) Monk(坊主)”となっていますが、原題は“Bulletproof Monk”。直訳すれば、“防弾坊主”なのです。つまり、「弾が当たっても死なない坊主」という意味であり、間違っても「弾を撃ちまくる坊主」ではないのです。そもそも、平和を愛するチベット僧である彼は銃を持っていません。彼がCMやポスターで持っている2丁の拳銃は、たまたま敵から奪ったものでして、その場ですぐに捨てちゃいます。劇中で坊主が拳銃を握っているシーンは、なんとたったの20秒ほどなのです(そりゃないよ!)。その写真を堂々とポスターに使い、繰返しCMで流すのはどうかと思うぞ。これは例えるなら、プリッツに1本だけポッキーを混ぜて、ポッキーの箱に入れて売るようなものだ。ひどい商法です。よって、本作に『リベリオン』のようなカッコイイお馬鹿ガンアクションを期待すると、確実に裏切られるでしょう。

では気を取り直して、ストーリー紹介を。チベット山中のとある寺院に不思議な巻き物がある。この巻き物を守る者には不思議なパワーが宿って不老不死となり、以後の60年間は巻き物を守り続けなければならない。そしてその間に、巻き物の次の継承者を探さなければならないのだ。なんだか随分とアバウトなお話ですな。で、その巻き物を60年に渡って狙いつづけるナチの残党と、巻き物を守る不死身坊主がニューヨークを舞台に戦うわけです。

ユンファ坊主が後継者候補として目を付けるのが、スリで生計を立てるカーという若者。この2人の関係がズバリ、カンフー映画における王道の設定とも言える「師匠と弟子」の関係となるわけです。血気盛んな若者が、師匠の教えで成長していく。そして、2人の前には因縁の敵が立ちはだかる。見事なまでに古き良きカンフー映画の基本設定が盛り込まれています。

つまり、本作が銃撃戦アクション映画でないのはむしろ正しいと言えます。この作品のあるべき姿はカンフー映画なのです。にもかかわらず、カンフーアクションと呼ぶには中途半端な格闘シーン。まず、登場する敵がカンフーを使いません。もともとのストーリーが無茶苦茶なんだから、ナチの残党がカンフー使ってもそれほど違和感は無いはず。「チベット坊主VSナチ残党 カンフー対決INニューヨーク」ってだけで結構面白くなりそうなのになぁ。

基本設定だけでなく、もっと全編通じて懐かしカンフー映画の王道を見せるべきでしょう。例えば「師匠が弟子にヘンテコなトレーニングをさせる」とか「修行中に弟子が変な武器や必殺技を編み出す」などが望ましい。「師匠が敵に倒され、弟子がカタキをとる」というのもグーだ。もちろんカンフーシーンでは「ハイッ!ハイッ!」という掛け声も欲しい。そんな馬鹿カンフー映画にしてほしかった。『男たちの挽歌』への中途半端なオマージュなんか入れる前に、カンフー映画として楽しませなさい。

実はこの作品、原作がアメコミなのです。かつては「アメコミの映画化は失敗する」というジンクスがありました。それを見事に打ち破ったのがサム・ライミの『スパイダーマン』だったわけですが、本作にはそんなジンクスが健在だった頃のアメコミ原作映画の匂いがプンプンします。特に唐突なストーリー展開には、原作のあらすじをただなぞっているだけという印象を受けました。原作をどうアレンジするかが重要なんだから、面白くするためなら原作を少々無視して撮ってもいいんじゃないでしょうか。

こんなマイナーな作品を、私は公開初日に行ったのです。いや、単に私が暇人だからではない。これで私も色々と忙しいのです。休日には掃除、洗濯、昼寝、パチンコなどやることがいっぱいだ。そんな激務の中、わざわざ早起きして初日に観に行ったのは他でもない。劇場に武蔵が来たからなのです。そう、あのK-1ファイター武蔵ですよ。一体なぜ武蔵が?実は彼、昨年の『リベリオン』公開時にも同劇場を訪れ、“ガン=カタ講座”なるものを披露していたのです。その流れで、今年も半ば強引に呼ばれたようです。プレス向けの写真撮影と称して、今回も2丁のモデルガンを手渡される武蔵。「ま、また、これッスか?しかもこの銃、“ガン=カタ講座”で使ったのと同じヤツじゃないッスか!」と不平を漏らしつつも、2丁拳銃ポーズをビシッとキメる。う〜ん、いい人だ。さらにヒット祈願と称して、ステージ上にいる修行僧(偽物)になぜか蹴りを入れるように指示される武蔵。「年明け早々、坊主蹴るんスか?縁起悪くないッスか?」と不満気ながらも、キック用ミットを持った坊主に「ボフンッ!」とハイキックをかますのだった。ホントにいい人だ。あのガタイで妙に映画に詳しいというのもステキだ。でも折角のヒット祈願の甲斐もなく、わずかひと月足らずで公開打ち切りのようです。南無。

評者→青木泰子(30):いい映画って少ないですね。年に数本見つかれば多い方。これじゃあまりに寂しい。ならば残ったダメ作品を楽しむしかない。例えダメな作品でもダメなりに楽しく紹介する、そんなレビューになればいいな。

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