音楽レビ ブックレビ ひとこま画像 2004年3月31日号
 
【隔週更新映画レビュー】 著:システム開発会社勤務 青木泰子(31)

今週の一本
ゼブラーマン」

>>>>>


突然ですが、皆さんVシネマは好きですか?うちの近所にはレンタルビデオ屋さんがたくさんあるのですが、なぜかどの店にも充実のVシネコーナーがあるんです。私の住まいがデンジャーゾーンにあるせいでしょうか…。そのコーナーに置かれた棚には「極道」とか「仁義」とか「抗争」などと書かれたパッケージがズラ〜ッと並んでいて、ある意味すがすがしいほどです。心が洗われます(うそ)。しかも時としてその棚の前に、パンチパーマネントをあてておられる方が、まるで和式トイレにて用便をされているかの如くしゃがみ込んでビデオを選んでらっしゃったりして…う、うぃっス。ご苦労さんっス。このように、Vシネマにはとにかく需要があるようなのです。

15年ぐらい前に初めてリリースされた頃は鳴かず飛ばずだったVシネマですが、今では日本映画界への登竜門として機能しているほど。なぜVシネマはここまでメジャーになれたのか?それは作品の質の向上はもちろんですが、スター俳優の出現も大きな要因と言えるでしょう。そしてそのVシネ界最大のスターこそが、哀川翔(以下、アニキ)、その人です。「出演するだけで確実に売上が伸びる」という伝説を持つほどの人気ぶり。そんなアニキの記念すべき100本目の主演作品が本作『ゼブラーマン』です。

時は2010年。横浜市八千代区(架空の町)というとても狭いエリアで、不思議な現象が頻発する。巨大ザリガニが大量発生し、アゴヒゲアザラシが大挙して鶴見川を上る。防衛庁はこれらの怪現象を地球外生命体のしわざに違いないと断定し(なぜ?)、いち早く調査に乗り出す。一見平和なこの町で、いったい何が起ころうとしているのか?!

脚本は超売れっ子、宮藤官九郎。監督は一部で熱烈な支持を集め、海外からも注目される三池崇史。あのタランティーノも大のファンです。Vシネマ出身の監督ということもあり、過去の作品の多くはヤクザ映画なのですが、その作風はとにかく変でして、殺されたヤクザが機械化して甦る『フルメタル極道』とか、戦慄のヤクザホラー『極道恐怖大劇場 牛頭 GOZU』とか、変なのばかり。かと思えば、SPEEDとDA PUNPが共演したトホホ映画『アンドロメディア』も三池作品だったりするから油断ならない。とにかく何でもかんでも、勢いで撮ってしまう監督です。

今回、アニキは小学校教師という珍しい役どころ。しかもこの市川先生は教師としてもダメ、父親としてもダメというダメダメ人間。この頼りないダメ男という役が意外にハマってました。他の出演者としては、市川先生とオタク的友情を交わす浅野少年に安河内ナオキ 。その母、可奈に鈴木京香(その谷間、未だ健在)。教頭先生に大杉漣。敵の怪人「恐怖!カニ男」として柄本明。そして、防衛庁特殊機密部に勤務する及川を渡部篤朗がいつも以上にダルそ〜に演じていて、中々いい味を出してました。余談ですが、アニキと同じく一世風靡セピアのメンバーだった柳場敏郎が持ち前の仲間意識を発揮して、「及川役はオレにやらせろ!」と言ったそうですが、そりゃダメだよギバちゃん。人には向き不向きというものがあるのだよ。まあ、敵の怪人としてなら出番があったかもしれません。ホッペがプクプクと膨らむ「怪奇!フグ男」とか。

ジャンルで言えばヒーロー物なのですが、クドカンと三池崇史がコンビを組んでありがちな作品になるはずもなく、笑って笑って泣けるヒーロー映画になっています。特筆すべきはその笑いのセンス。クドカン流ギャグと三池流ギャグが渾然一体となっていて、かなり笑えます。クドカン自身も初めて試写した際に、三池流のヘンテコギャグにコテンパンにやられたそうです。ただ、アクション映画としてはあまり見るべきところがなかったのが残念。笑い満載の前半に比べて、アクションヒーロー物になる後半はちょっとパワー半減です。お子様への配慮からか、三池監督らしい過激なバイオレンスも皆無なのでした。でも、ラストはバッチリ決めてくれます。

役者であると同時に、5人の子を持つ父親でもあるアニキ。そんなアニキには悩みがありました。「我が子にオレの仕事ぶりを見て貰いてぇ。がしかし、オレの映画はチンピラ・ヤクザ映画ばかり。とても子供に見せる代物じゃねぇ。どうすりゃいいんだ!?」という父としてのジレンマです。その思いを盟友、三池崇史がガッチリ受け止め、宮藤官九郎の助けを借りて実現したのが本作です。そのため、三池作品の持ち味である既成の枠に収まらない過激さ、奇抜さは控えめ。コアな三池ファンにはちょっと刺激が足りないかもしれません。ですが、監督をはじめスタッフ達の「ヒーロー哀川翔」への思いが詰まった本作は、観る人を元気にしてくれる映画なのです。

評者→青木泰子(31):いい映画って少ないですね。年に数本見つかれば多い方。これじゃあまりに寂しい。ならば残ったダメ作品を楽しむしかない。例えダメな作品でもダメなりに楽しく紹介する、そんなレビューになればいいな。

バックナンバー