今週の一本
「下妻物語」
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“ロリータ”とはなんぞや。ウラジミール・ナボコフの小説『ロリータ』から端を発する“少女”を意味する言葉です。でも最近は、ある系統の服装を“ロリータ(系)”と称するようでして、一体どんな服がロリータなのかと申しますと、レースやリボン、フリル等で飾られた、それはもうとてつもなく可愛いフリフリのお洋服なのです。フリフリと言いましても、大人でも着れる(とされる)いわゆるピンクハウス系とは異なり、少女が着ることを大前提とした最強にラブリーなデザインなのです。例えば私のような30女がそれを着用し、街を歩こうものなら、即刻通報、逮捕、連行され、取り調べ室にて「どういうつもりだ?」などと尋問されちゃうことでしょう。
ではキャストをご紹介。実在するブランド、「BABY,THE STARS SHINE BRIGHT」の服を着る事が生きがいというロリータ少女・桃子を演じるのは深田恭子。ひょんなことがきっかけで桃子と出会うヤンキー少女・イチゴには、モデルとして雑誌やCMなどで活躍する土屋アンナ。桃子の父、母、祖母をそれぞれ、宮迫博之、篠原涼子、樹木希林が怪演しています。他には阿部サダヲや荒川良々といった、すっかりお馴染み劇団大人計画の面々が出演。監督はコマーシャルフィルム界で活躍する中島哲也。山崎努と豊川悦司が温泉旅館で卓球する「サッポロ黒ラベル 温泉卓球篇」などのCMを撮ったスゴイ人。原作は乙女派文筆家、嶽本野ばらの『下妻物語 ヤンキーちゃんとロリータちゃん』です。
いやー映画ってホントにいいもんですね(水野晴郎)。かなり面白い。のっけからぐんぐん引き込まれました。ストーリーよりも、登場人物の言動やくるくるとスピーディに展開する映像に引っ張られる感じ。こんな楽しい映画は久々です。桃子とイチゴの行動、会話の面白さはもともと原作が持っている要素ですが、テンポ良く繰り出されるインパクトある映像は中島監督をはじめとする映像スタッフの力量によるもの。短い映像で最大の効果を追求するというCM界で培った技術がそのまま映画に生かされています。
まず、個性あふれる登場人物がとっても魅力的です。特に主人公の桃子。彼女独特のモノの考え方やヘンテコな行動、セリフなどが可愛くて可愛くてたまりません。もしこんなコが実際にいたら、カカト落としするところですが、これほど嫌みなく“不思議少女”を演出できるとは驚きです。あくまでフィクションだからこそ、彼女に共感できるのかもしれません。とにかく、深田恭子、一世一代の当たり役です。一方、ヤンキー少女イチゴも負けてません。やることなすこと極端です。演じる土屋アンナはモデルだけにかなり美形。その整った顔を崩しまくってのヤンキー役が妙にハマってました。
そして、客席に笑いを巻き起こすギャグの数々。実在するブランドや企業名、人名等を出しちゃう反則スレスレのギャグ。地元の人間にしか分からない地方ネタ。なんだか宮藤官九郎がよく使う笑いのパターンと似てますが、それをさらにパワーアップさせた感じ。ネタにされる方もよく許可したなと感心します。
欲を言えば、ラストがちょっと弱かったのが残念。少しグダグダした印象でした。もっとスパッ!と綺麗に締めて欲しかったな。それと、何度か挿入されるアニメパートがそれほど効果的ではなかったように思う。あんまり可愛くないし。むしろ劇画調アニメにした方がよかったかも。でもそれじゃ『KILL
BILL vol.1』とかぶっちゃうか。この二点が良ければ完璧だったと思います。
桃子を演じる深キョンはとても可愛かったのですが、一体何処までが演技で何処からが天然なのか不明です。しかし本人曰く、「全て演技です」とのこと。ホントかぁ?本物の“不思議ちゃん”だけに怪しいところです。ちなみに深田恭子さん、前世はイルカだったそうです。出たよ、前世イルカ…。そして前々世はなんと、マリー・アントワネット(!)だったらしい。さらに来世は黒ネコになるのだそうです。へぇー。ふーん。かわいいでしゅねぇ、深キョンは。んじゃ、私の前世はアレキサンダー大王だ(アホか)。そして来世はアラブの石油王になります(む、むなしい…)。
茨城県下妻市というのどかな片田舎が舞台のお話なのに、しかも主人公はホンワカしたロリ系少女なのに、ギュンギュン突っ走るあっという間の1時間40分。可愛くて楽しくて面白くて、でもそれだけじゃない。夢と現実の狭間で生きる少女たちの青春友情映画、ぜひご覧ください。
評者→青木泰子(31):いい映画って少ないですね。年に数本見つかれば多い方。これじゃあまりに寂しい。ならば残ったダメ作品を楽しむしかない。例えダメな作品でもダメなりに楽しく紹介する、そんなレビューになればいいな。
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