映画レビ ブックレビ ひとこま画像 2002年7月17日号

 【隔週更新音楽レビュー】著:企画制作会社勤務 斎藤 滋(24)

今週の一曲
「東京」
桑田佳祐

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こんにちは。サッカーに続いて、音楽レビューを担当させていただく斎藤です。よろしくお願いします。

東京は今日も雨/何故 はかなく過去を濡らす/今宵 夢の中へ遭いに来て など、詞的には何かを表現しているわけではないのですが、曲全体を通した“情緒”が絶妙です。なんとも言えない。こもるようなメロディ・アレンジと唯一無二のあの声で情緒たっぷり。これやらせて彼の右に出る人はいません。記念すべき第1回は桑田佳祐の「東京」です―――。

梅雨明けもしないまま、台風が行ったり来たり。その合間、気温は平気で30℃オーバー。そんな今日この頃、今年も桑田佳祐は歌を出します。夏の桑田佳祐と言えば、心を掴むキャッチーなサビと夏を思わせるキーワードで、“ひと夏の恋のはずだったのに、忘られないあの女(ひと)”を歌い上げるのが定番ですが、「波乗りジョニー2002」と言った趣の「可愛いミーナ」はカップリング。タイトル曲の「東京」は今流行の昭和歌謡風。まぁ、“流行”と言っても、桑田氏は歌謡曲の情緒をうまいこと絶妙のダサカッコよさに落とし込む第一人者ですが。「東京」は正にそんな歌でした。ある意味、桑田佳祐全開。典型的桑田歌謡。

最初は地味なメロディだなぁ、いつもの“暗い方の桑田”だ、などと思っていたのですが、CS放送で映像付きで聞いたりしていくうちに、なんだかその情景だったり、全体的な雰囲気が染みてきて、「いいかも」って思うようになってました。

ほんとに巧いです。桑田氏が得意とする昭和歌謡的“情緒“感。決してスカッと突き抜けたり、気が付いたら口ずさんでいてた、なんてことは無いんですが、何か引っかかるんですよ、とくにメロディと声が。信号待ちとか、エレベーターの中とか、心がカラッポになってる時に、フッと心をよぎるんですよね。そして、何となく、”切ない“と言うより”鬱“な気分に。いい悪いではなく、心に入り込んでくる、何かが引っかかる歌です。

ただ、聞き続けるうちに一つ気になったことがあります。タイトルの「東京」ならではの雰囲気はとくにでていない気がするんです。いつもの「湘南モノ」でやってるような地名や固有名詞が詞に出こない、ってだけでなく、なんというか、何かが足りないんですよね。

ぼくの家は埼玉で、毎日東京へ通ってるんですが、荒川のコッチと向こうで明らかに何かが違うんですよね。東京の、ありていな言い方で言えば、華やかさの裏の汚さも、大衆の中の孤独も想像はできるんですが、皮膚感覚で感じられないんですよね。近いけれども外側にいるけから、ヒシヒシと感じるんです、“東京“を。同時に自分のものとして消化できないことも。単純な言葉で言うとコンプレックスなのかも。 桑田氏も神奈川出身。イメージはできても、自分の中で消化、さらにアウトプットは難しかったのかな?リアルな“東京”も部外者が抱く幻想としての“東京”も出ていない気がして、それ不満です。埼玉っこのぼくが”東京“を受け取れなかっただけかもしれませんが。

また、マニアックとも取られがちな曲をシングルのタイトル曲としつつも、「コカ・コーラ」のCMで既に期待が高まっていた「可愛いミーナ」もちゃんとカップリングには入れておく。そんな桑田氏の、自分のしたいことと、求められていることを巧いこと消化できるバランス感覚には脱帽です。未だに日本の音楽界のトップランナーでいられるのは、類稀な作詞・曲力とともに、そのあたりなのでしょうね。

今週は以上です。次回からもよろしくお願いします。

評者→斎藤 滋(24):一番好きな歌はスーパーカーの「Sunday People」。言葉で激しく主張するのではなく、メロディ、アレンジ、詞が絡み合い、全体で“何か”を伝えてくれる曲が好きです。スガシカオの人の心の動きとシチュエーションを切り取る詞も好な一方、全盛期の小沢健二の暴力的なまでのキャッチーさにもひかれたりします。

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