映画レビ ブックレビ ひとこま画像 2002年12月11日号

 【隔週更新音楽レビュー】著:企画制作会社勤務 斎藤 滋(24)

今週の一曲
「車線変更25時」
キンモクセイ

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家から海まで近いですか?斎藤です。

今週はキンモクセイの「車線変更25時」。キャッチーで親しみの持てるメロディと、ベタなくらいの爽やかさがウリの彼ら、今回は昔のディスコ風です。
イントロのストリングスから始まる、ちょっと過剰なくらいの “レトロ感“の強調が、とにかく一人で海へ向かってしまうやりきれない哀愁をにじみ出してていい感じです。

ところで、なんで人はフラれると海に行くんでしょうか?
結局、海行ったところで何にもなんないのなんかわかってるのに。多分「とりあえず海へ」だと思うんですよ。いきなり心に大きな穴が空いて、どうしていいかわからなくて、とにかく何かしないとだめで。この「車線変更25時」ではその感情がうまく表れてます。

<♪一人きり海まで走りだす/想い出が足りないだろう>
と歌いだし、最初のサビでも <♪簡単すぎて涙がでるぜ/前だけみても何も見えない>と。

しかし、2番のサビになると<♪通り過ぎた道はすでに/僕の中じゃどうでもいいこと>となり、最後の大サビでは<♪簡単すぎて涙が出るぜ/前だけみればなんでも見える>と吹っ切れていく。この流れにとても共感しました。「とりあえず海へ」向かっているうちに、だんだんなんか色々なことがどうでもよくなってく。

しかも、最後のフレーズは<♪全速力で駆け抜けてくぜ/まだ一度も/見たことない所(とこ)まで>と、さらにその先をめざそうとします。ここまで聞いてくると、この言葉が強がりと勢いの半々にちゃんと聞こえる。コレってまさにフラれた直後の心の動きですよね。最初はショックでなんかしなきゃ落ち着かなくて、でも、勢いで突っ走ってる間に、だんだんちょっと冷静になってきて。ま、どうにかなるさ、と思える。久し振りに“物語”がしっかりした曲をきけてうれしいです。

ここまで褒めた上で、一つ。多分、ボーカルの爽やかさが原因じゃないかと思うんですが、せっかくの昔ディスコ風なのに、エグみというかエロさが足りないかな、と。もうちょっとアクとかクセがあってもいいかなぁと。そのことから、残念ながら満点とはしませんでしたが、「車線変更25時」は名曲です。ぼくはキンモクセイの曲の中で一番のお気に入りになりました。今度失恋した時には、この曲をかけながら海へ向かおうと思います。

今週は以上です。

※歌とは直接関係ないんですが、この曲のPV、Vo.の伊藤氏が全く表情を変えずにクネクネ踊り狂ってて面白いです。しかも、微妙にリズムに乗り切れていない。曲の持つギリギリのダサカッコよさこそをうまいこと表現している名パフォーマンスでした。

評者→斎藤 滋(24):一番好きな歌はスーパーカーの「Sunday People」。言葉で激しく主張するのではなく、メロディ、アレンジ、詞が絡み合い、全体で“何か”を伝えてくれる曲が好きです。スガシカオの人の心の動きとシチュエーションを切り取る詞も好な一方、全盛期の小沢健二の暴力的なまでのキャッチーさにもひかれたりします。

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