映画レビ ブックレビ ひとこま画像 2002年12月25日号

 【隔週更新音楽レビュー】著:企画制作会社勤務 斎藤 滋(24)

今週の一曲
「HERO」
Mr.Children

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今年って、「これだ!」ってクリスマスソングがありませんでしたよね。斎藤です。

今回はMr.Childrenの桜井氏復帰後初シングル「HERO」を。
どうやら巷の噂では以前から書きだめしていた曲を、シングル用に完成させたものとのこと。大病を患ったことはあまり反映されていないと考えるのが妥当みたいです。ちょっと残念。でも、そんなこと関係なしに、名曲です。桜井節炸裂です。

♪小さい頃に身振り手振りを/真似てみせた/憧れになろうだなんて/大それた気持ちはない

小さい頃は本気でゴーグルブラックになりたかったのに、歳を重ねると、必要以上にモノわかりがいいフリして「オレってこんなもんだよな」なんて。変に現実が見えた風を装って「『HERO』になんてなれるわけネージャン」なんて。自分の諦めとか至らなさを、“現実”として肯定しちゃったりして。

♪でもヒーローになりたい/ただ一人 君にとっての

そしてこの曲、サビのこの1フレーズが全てです。さらに言えば、この「でも」が。確かに自分は大したことない奴だと、“でも”、好きな人に対しては、諦めとか、臆病さを見せたくはない。守ってあげられる存在でいたい。

この諦めとプライドの関係を“HERO“という言葉を使って表したのはのはグー♪と思っていたら、大サビで、

♪ちっとも謎めいてないし/今更もう秘密はない/でもヒーローになりたい

これはもう、自分のそんな弱さとかカッコ悪いとこも分かってる人にとってのヒーローでいたい、といってるのかな、と。ここまでいければカッコイイですよね。そうなりたいです。まさに「憧れ」。この『ダメな俺、“でも”、君への愛だけはホンモノでありたい』ってテーマを歌わせたら、桜井和寿以上に巧い人は日本にいません。

さらに、今回の「HERO」は、「ニシヘヒガシヘ」以降では珍しいくらいに歌詞がわかりやすいです。「光の射す方へ」のように深読みをさせるような言葉が続くわけでもなく、「終わりなき旅」のように大概念すぎてどうとでもとれる、というわけでもない。

上に書いた「
小さい頃に身振り手振りを/真似てみせた/憧れ」とか「人生をフルコースで深く味わうための/幾つものスパイスが誰もに用意されていて(中略)最後のデザートを笑って食べる君の側に僕は居たい」みたいに、適度な具体化。聞きながら「あぁ〜」と思える。

ただ、イントロの「〜誰か一人の命と/引き換えに世界を救えるとして/僕は誰かが名乗り出るのを待っているだけの男だ」はちょっとやりすぎかなと思いますが・・・。ツカミということを考えれば、卑屈さの“インパクト”はそんなに気にならないのですが、ショッパナでまず聴く人に後ろめたさを共有させようという“意図”がちょっと・・・。

それでも、わかりやすい言葉で桜井が節炸裂した「HERO」は、5点とさせていただきました。

今週は以上です。では、また来年。よいお年を。

評者→斎藤 滋(24):一番好きな歌はスーパーカーの「Sunday People」。言葉で激しく主張するのではなく、メロディ、アレンジ、詞が絡み合い、全体で“何か”を伝えてくれる曲が好きです。スガシカオの人の心の動きとシチュエーションを切り取る詞も好な一方、全盛期の小沢健二の暴力的なまでのキャッチーさにもひかれたりします。

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