映画レビ ブックレビ ひとこま画像 2003年1月15日号

 【隔週更新音楽レビュー】著:企画制作会社勤務 斎藤 滋(24)

今週の一曲
「スノースマイル」
BUMP OF CHICKEN

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初めて手をつないだ時の気持ち、憶えていますか?斎藤です。

今回はBUMP OF CHICKENの1年2ヶ月ぶりとなるシングル「スノースマイル」を聴いたのですが、マズイことになってます・・・。
聴いていくと、PV見た影響もあるんでしょうけど、葉が落ちた木々のなかを静かに歩いていくような落ち着いた気分になれます。耳心地の良い曲には仕上がっていると思います。

最初はアコースティックギター1本の弾き語りみたいな感じで始まって、全編通してシンプルな音。それは相変わらずハスキーでセクシーなVo.藤原君の声はを際立たせます。なんか、それらしい雰囲気はあるんですよ。でも、それらしいだけで、ぼくの心の柔らかい場所をワシヅカミにしてくれないのです。

唯一、イントロの♪冬が寒くって本当に良かった/君の冷えた左手を/僕の右ポケットにお招きする為の/この上ない程の理由になるからはキュンとなりましたが。

キスって、「するぞするぞ」って雰囲気を作ってからだから(ま、そうじゃないと大変なことになるわけですが)、自分に対しても気持ちを盛り上げることができますよね。でも、手を繋ぐ時って、一瞬の勝負だったりするじゃないですか。その瞬間の二人の心理的・物理的な距離を判断し、不自然にならないようなアプローチを決定する・・・。そのくらい手をつなぐタイミングに慎重なぼくにはこのフレーズは響きました。

でもそれって、「あぁ、あるある」っていう共感でしかないんですよね。
「ダイヤモンド」で♪ひとつずつ ひとつずつ 何かを落っことして ここまで来た/ひとつずつ 拾うタメ 道を引き返すのは 間違いじゃないと歌ったバンプにしては、言葉に重さが無かった。

こんな駄文を書き連ねているぼくでさえ、表現すること、人に何かを伝えることって、自分が裸になることだと思ってるんですね。そう考えた時に、バンプは恐ろしいバンドでした。まだまだ荒削りだけど、邪念のなさで魂の叫びが伝わるロックバンドってたまにいるじゃないですか。それがバンプは、詞もメロディも演奏も歌も全てが高いレベルにありました。さらにそのなかでも、詞と歌が飛びぬけていて、一回聴いたら聞き流せなくて、ずっと心のどこかに残るくらい深く重い。それは、藤原君が自分の身を削って書いた言葉を最高の感情移入で歌うからなんだといます。はっきり言って嫉妬してました。それなのに、今回は小手先だけになってしまっている気がします。

また、今曲はそれまでのシングルには無かったようなアレンジだったり、サビのコーラスが多重録音だったり、新しい試みがなされています。しかし、それぞれ単体ではうまくいっていると思えるそれらの実験も、お茶を濁すためにしかとれず、ぼくは否定的です。

以上のような理由から、曲としてはある程度まとまっていて、新しいバンプが盛り込まれているものの、言葉がぼくの心まで届かなかった「スノースマイル」は2点とさせていただきます。

余談ですが、前のシングルから1年2ヶ月。最新アルバムから10ヶ月。デビューしたてのミュージシャンとしては忘れられてしまいかねないスローペースです。その間、新曲を出さなかったんじゃなくて、出せなかったんじゃないかな、なんて思います。中途半端なものは出せない、とここまでズルズル。で、ギリギリのところで新しい試みをして、今曲のリリースに至ったんじゃないかな、なんて。 「とうとうメジャーデビュー決定」の報を00年の夏に聞いたとき、ただの一ファンだったくせに心配しました。
彼らの音楽に対するとても“まじめ”な姿勢を感じていたので、色々なシバリの中でいい曲作っていけるのかなぁ、なんて。「ダイアモンド」や「天体観測」を聴いて、才能ある人には関係ないのか、とも思ったんですがね。
自作に期待します。

それでは、また次回。

評者→斎藤 滋(24):一番好きな歌はスーパーカーの「Sunday People」。言葉で激しく主張するのではなく、メロディ、アレンジ、詞が絡み合い、全体で“何か”を伝えてくれる曲が好きです。スガシカオの人の心の動きとシチュエーションを切り取る詞も好な一方、全盛期の小沢健二の暴力的なまでのキャッチーさにもひかれたりします。

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