今週の一曲
「COLOR」
宇多田ヒカル
|
>>>>> |
|
皆さんは、いつから大人になったと思いますか?斎藤です。今週は宇多田ヒカルの「COLORS」です。
トヨタのCMでちょっと聞いたり、TVでPVをチラっと見てたりして、相変わらずそれなりのものを出してくるよなぁ(いい意味で)、と思ってたんですが、そうもいきませんでした。この曲、最近の彼女の“迷い“がモロに出てしまっってます。
「COLORS」、音はいつものクォリティを保ってます。モノクロをイメージさせる言葉が出てくるAメロ・Bメロはちょっと重く、青や赤、オレンジといった言葉がでてくるサビでは音もパァーっと一気に抜ける構成はとてもいい感じです。
それに、イントロから繰り返し使われるオリエンタルな(!?)フレーズはずっと耳に残る。それなりにクセがある音なのに、嫌味なく巧いことなじませてしまってますし。
で、今回の何が問題だったのかといえば、“詞”。タイトルが「COLOR”S“」となっているように“色とりどり感”がテーマだったと思うんですが、それに引っ張られて、詞が強引なんです。
「色を展開した詞を作ってみよう」という、言うならば“企画モノ”。
自分で、そういうシバリを持ち込むことは全然問題ないと思うんですが、自分のシバリを越えられなかった。
<白い旗はあきらめた時に>とか、<今は真っ赤に 誘う闘牛士のように>、<オレンジ色の夕日>、<真っ赤に残したルージュの痕>などなど・・・。とにかくありきたり。
宇多田ヒカルらしさが全く無いという前に、こんなの恥ずかしくて鼻歌で歌えません。
元々、気の利いた言葉遊びが出来るタイプではないと思います。
彼女の書く詞の魅力は、素直な感情が的確に歌詞に落としこまれていること。
だからこそ、「First Love」で<♪You are always gonna be my love/いつか誰かとまた恋に落ちても/I'll
remember to love/You taught me how>と、終わったことで実感する初恋の本当の大きさ、と同時に失ったことそのものの切なさ、さらにはそれを糧にしようとする強さ(強がり)を歌えたわけで。
また、“色とりどり感”という意味では、音に関しても合格点ではないのですよ。
さっき構成のところで、チョット触れましたが、A・Bメロ⇒サビへの流れは、わかりやすいのですが、カラーになった時の“色とりどり“感がもの足りない。
たしかに、音数が増えるなど、色はついたのだけれども、それが色々な色に合わせて展開していくような、転調・変化がないのです。
この手の企画は実際難しいと思います。成功例を探そうと手持ちのCDひっくり返したり、大物ミュージシャンの曲を検索して、思い出そうとしたんですが、無いです。成功とは言いたくないですが、エコーズの「ZOO」が、この“××に絡めて一曲書いてみよう”という企画モノでは最も知名度高いかも。(読者の方で、何かご存知ないですか?知ってたら教えてください。)
「宇多田ヒカルの書く詞」の話も出したので、文頭に書いた、彼女の最近の“迷い“ってことについてもう少し。
現在までの宇多田ヒカルは、3つの状態に分けられると思うんですよ。
まず、1stアルバム「First Love」までが第一期。
“まだ大人ではないけれども、もう子供でもない少女”が、自分の感情をストレートに詞に落とし込んで、結構いいメロディと、地に足付いた歌唱力が絶賛され、大ブレイクした時期。一部では「女子高生の日記」と批判された彼女の詞。それは“リアル”ということで、この頃の詞はとくに掛け値なしの等身大。“創作“というよりも、”ヒカル日記“なわけですよ。だから、ちょっと前に「スノースマイル」の回でも同じようなこと書いたんですが、最高の感情移入状態で歌える。自分のことだから。
宇多田ヒカルの最高傑作は(特に詞では)「First Love」って思ってる人多いんじゃないですか?この曲が第一期の完成形です。この時期の宇多田ヒカルは、リアルな感情、自分の内面を、的確に詞に落とし込める才能がキモでした。
で、その次。これは4thシングル「Addicted to you」からいきなりそうなのですが、単純に音のクォリティが上がった。メロディー自体はそう変った気はしないのですが、トラック面で、いいエンジニアやディレクターがついたのか、全体の構成、各音々のバランス、メリハリ、深み、そういうのが一気にガーン!ってあがりました。楽曲自体はどちらかというとアップテンポでダンサブルなナンバーが多かったはずです。この流れでは「Traveling」が頂点です。音楽レビュー前任者の中崎がこの曲の詞を酷評していましたが、ぼくはあの音を引き受けられるだけの“非現実感”を評価しています。あの“作り物“感が前面出ている詞だからこそ、トラックの浮遊感を損なうことがなく、「Traveling」を名曲にしたのです。(ただ、狙った結果なのかについては、「COLORS」の詞を見てしまった今となっては半信半疑ですが。)
それと、この第二期以降は映像への力の入れ方もただ事じゃない。CGゴリゴリ使うし、カット数多いし、「Automatic」の時の大道具ソファーのみ、小道具無し、から考えると、雲泥の差(笑)。いや、アレはアレで良かったんですけどね。もうホントに「Traveling」はPVも最高傑作。あの画(え)を頭の中に持っている、旦那さん、ホントに天才。
まとめると、第二期は人材面、予算面、といった広い範囲での制作体制が向上し、彼女もうまいことそれに乗っかって幅を広げた時期でした。
そして、それ以降の「光」とか「SAKURAドロップス」とか、今回の「COLORS」の第3期は迷走期ではないかな、と。実力も認められ、自分が作ったものをさらに磨いてくれる素晴らしい体制も整って、さらにもう一つ上へ!ってとこで、壁に当たっている気がします。
今回は失敗に終わりましたが、テクニック面での充実をはかり、表現の引き出しを増やしていくのか?それとも、元々の一番の強みである自分の内面を切り出す力を磨くのか?
現時点ではわかりませんが、なんらかの方向にスコーン!って抜けたところで、第四期が始まるんでしょうね。
そんな迷走期の象徴になってしまいそうな「COLOORS」は「ウタダぁ!こんなもんかぁ?違うよな!?」って意味を込めて、2点とさせていただきました。
それではまた次回。
評者→斎藤 滋(24):一番好きな歌はスーパーカーの「Sunday
People」。言葉で激しく主張するのではなく、メロディ、アレンジ、詞が絡み合い、全体で“何か”を伝えてくれる曲が好きです。スガシカオの人の心の動きとシチュエーションを切り取る詞も好な一方、全盛期の小沢健二の暴力的なまでのキャッチーさにもひかれたりします。
|
バックナンバー
|