映画レビ ブックレビ ひとこま画像 2003年5月14日号

 【隔週更新音楽レビュー】著:企画制作会社勤務 斎藤 滋(25)

今週の一曲
「蝶々結び」
aiko

>>>>>


好きになると、他に何も見えなくなってしまう方ですか?斎藤です。
今回はaikoの「蝶々結び」です。

aiko嬢にはダマされます。今回もダマされました。「ダマす」と書くと、人聞き悪いので、ドキッとさせられた、と書くべきかもしれません。

この曲、タイトルである、「蝶々結び」という言葉は詞中に出てきません。
<♪麗し君 大空に振る舞う君/どんな花に留まるだろう 待ってみよう>
とどこにいくかわからない移り気な彼のことを蝶々に例えている箇所と、
<♪あなたの全てがこぼれ落ちても/あたしが必ずすくい上げるさ/変わらぬ悲しみ嘆く前に 忘れぬ喜びを今結ぼう>の部分に。別々に出てきます。
そもそも、彼女の言う「蝶々結び」は紐の結び方のことではなく、どうやら、“どこにとまるか分からない蝶(君)を止めておきたい、紐で結んででも”ということのようです。
この言葉遊び、彼女のセンスですよね。彼女の一途な思いがよく表れていると思います。

しかし一方で、音は軽やか。ちょっと弾むピアノとホーンばりばりのハッピーな曲調。GW〜梅雨入り前の今の時期の清々しさみたいなものにピッタリマッチしていてウキウキしてしまいます。声もいいですね、彼女。安心して聞いていられる。

この曲も含めて、aikoの曲はノリもいいし、親しみやすいメロディーなので、口ずさみたくなるんですが、よく考えると、歌詞が怖い。
詞全体をとおして、感じるのは、365日、寝ても覚めても大好きな彼のこと、考えているタイプであること。うまくいってる時はいいんだけど、ギクシャクしだすと、ストーカーみたいになりかねない、恋愛依存度の高い人に見えます。あなたがいなければ私は存在しない、みたいな。実際そういう歌ありますし…。
女の子の微妙な恋心を巧みに歌詞に落とす、という点で同様の作詞センスを感じさせる宇多田ヒカルは、自分自身に対してもそれなりの自信があるため、失恋の歌もどこか、悲しげではない。

aikoは、可愛いわけじゃないけど親しみの持てる童顔というビジュアル。音も伸びやかでハッピーなアレンジだったり、無用に高かったりリズミカルだったりしないし、歌も安心。でも、詞はあなたへの強すぎる想いが出ていて、ちょっと怖い。
そのギャップとバランスが、魅力です。

そして、
<あやすつもりであたしを抱いて抱いて>というサビが象徴的です。
「あやす」は子供に対する言葉ですが、「抱く」はオトナの言葉。そういう柔らかい入りくちと、強い気持ちが一緒になっている。彼女らしい、フレーズです。

彼女の魅力がしっかり出ている今作は4点とさせていただきました。
それでは、また次回。

評者→斎藤 滋(25):一番好きな歌はスーパーカーの「Sunday People」。言葉で激しく主張するのではなく、メロディ、アレンジ、詞が絡み合い、全体で“何か”を伝えてくれる曲が好きです。スガシカオの人の心の動きとシチュエーションを切り取る詞も好な一方、全盛期の小沢健二の暴力的なまでのキャッチーさにもひかれたりします。

バックナンバー