警察の捜査資料、自衛隊の秘密書類、児童の成績表…。ファイル交換ソフト「ウィニー」を介し、インターネット上に重要データが流出する被害が相次いでいる。大半がウィニーをインストールした私用パソコンを、業務でも使ったことが原因だ。ウィニーの使用者は全国で約六十五万人。被害は官公庁にとどまらず、民間企業にも拡大している。なぜ流出被害が止まらないのか。その背景を探ると、国民の危機管理意識の希薄さも浮き彫りとなってくる。
安倍晋三官房長官は十五日午前の記者会見で、ウィニーを介した情報流出が相次いでいることを受け、「国民一人一人が対策を取らないと情報漏洩(ろうえい)は防げない。最も確実な対策はパソコンでウィニーを使わないことだ」と国民に注意を呼び掛けた。
政府が特定ソフトの不使用を呼び掛けるのは異例のこと。安倍長官は同日午後の会見で、「わが国の国益にとって大きな問題になっていくし、ひいては国民のみなさんの生活にも悪い影響を及ぼしていく可能性がある」とその理由を説明した。
政府は同日付で、金融や航空など国民生活や社会経済活動の基盤である重要なインフラ事業者に対し、情報流出対策を徹底するよう要請した。
流出被害は官民問わず多方面に広がり、底なしの様相を呈している。
警察庁によると、今月に入って愛媛、岡山両県警で明らかになった捜査資料の流出は、これまでに七府県警で確認されている。陸海空の三自衛隊では、そろって秘密情報や隊員の個人情報などの流出が明らかに。刑務所からは受刑者情報、経済産業省原子力安全・保安院は原発の検査資料が流出した。
これらの流出被害の大半が、ウィニーを介してウイルスに感染した私用パソコンを職場に持ち込んだり、業務データを家に持ち帰り、私用パソコンに取り込んだりしたことが原因となっている。
防衛庁の場合、業務に使用していた私用パソコンは全国で約十二万台。このうちウィニーをインストールしていたものが八十台あり、ただちに削除させた。捜査資料が警部の私用パソコンから流出した愛媛県警では、全職員約二千七百人に「私物でもファイル交換ソフトを入れない」との誓約書を書かせることを決めた。
ただ、ウィニーの使用自体には違法性はないことから、「私用パソコンでは使用の自粛を求めている」という官公庁が多い。法務省の幹部は「基本的には職員個人のモラルの問題だ。しかし、流出に対する危機意識を一人一人に持たせることは必要」と話す。
一方、独立行政法人情報処理推進機構ウイルス・不正アクセス対策グループリーダーの小門寿明氏は「官公庁や大企業ばかりが注目を集めるが、深刻なのは仕事用と私用のパソコンを分けていないことが多い中小企業関連の情報流出。さらに個人の情報流出については、極めてさまざまなプライベート情報がネット上に出回っている」と指摘する。
そのうえで小門氏は、「現在表面化している情報流出は氷山の一角。パソコンが生活に密着している現在、家族や友人の情報が漏れるというのは、犯罪に利用される可能性もある。ネット上の犯罪も巧妙になっていることを認識しなければならない」と警告している。
[産経新聞社(3月16日)より引用]
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